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感染症発生時の情報公開・職員対応の混乱~医療機関が直面するリスクと対応の実務~

ある日、スタッフから「○○さんがコロナ陽性だったらしい」との話が院内で広まり、瞬く間に不安と混乱が広がった。正式な発表前にSNSで情報が拡散し、患者からも「感染者が出たのか」と問い合わせが殺到した。院長は「個人情報だから公表はできない」と判断したものの、一部の職員は「安全のために公表すべきだ」と反発。結果として、院内の信頼関係が揺らぎ、スタッフの出勤拒否まで発展した。
これは、感染症発生時に多くの医療機関で見られる典型的な混乱の一例である。


1. 情報公開の線引きが曖昧なまま対応が遅れる

感染症が発生した際、医療機関がまず直面するのは「どの範囲まで、どのように情報を公開するか」という判断だ。
個人情報保護法の観点から、患者や職員の特定につながる情報は安易に公表できない。一方で、感染拡大を防ぐためには、一定の範囲で迅速な情報共有が求められる。

この板挟みの中で判断が遅れると、現場は不安に包まれ、うわさや誤情報が飛び交う。感染者本人への偏見や職場内いじめが起こるケースもあり、労務トラブルに発展した事例も少なくない。

感染症発生時は、法的根拠のもとに情報公開の基準をあらかじめ定めておくことが不可欠だ。具体的には以下のような対応方針を文書化しておくとよい。

  • 院内感染発生時の報告・公表フロー(保健所・職員・患者への連絡順序)

  • 公表する情報の範囲(人数・部署単位・期間など)

  • 職員のSNS発信禁止および守秘義務の徹底

  • 院内掲示・患者説明の統一文面

これらを明文化しておくことで、実際に感染が発生したときにも慌てず対応できる。


2. 職員の不安と対応のばらつきが混乱を招く

感染症発生時には、現場の不安が一気に高まる。
「出勤したら自分も感染するのではないか」「家族にうつしたらどうしよう」といった感情的反応が強まり、冷静な対応が難しくなる。

筆者が関与したある歯科クリニックでは、スタッフの家族が感染したことを院内に伝えたところ、同僚がSNSで「うちのクリニックでも感染者が出た」と投稿してしまい、地域の噂となって患者予約が半減した。
正式な感染確認ではなかったにもかかわらず、投稿が独り歩きしたことで、クリニックは大きな信用損失を被った。

こうしたケースを防ぐには、平時から「感染症対応マニュアル」を整備し、職員教育を行っておく必要がある。
マニュアルには以下のような要素を盛り込むと効果的だ。

  • 職員本人または家族に感染が疑われる場合の報告ルール

  • 出勤停止・復職基準(医師の診断書提出や陰性確認の要否)

  • 感染者や濃厚接触者のプライバシー保護に関する指針

  • SNSや口外に関するルール(守秘義務違反のリスク含む)

  • 感染拡大防止のための勤務シフト再編手順

労務管理上は、出勤停止期間中の給与の取扱いも明確にしておくことが重要である。感染防止のための自宅待機が「使用者の指示」に基づく場合には、労働基準法第26条の休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要がある。
一方で、行政機関からの要請や本人都合による自主的な休業であれば、支給要否の判断が異なる。社労士としては、法的整理を踏まえた上で院内規程に反映することを勧めたい。


3. 経営者が信頼を得るための「発信力」が問われる

感染症発生時に混乱を最小限に抑えるためには、院長自身の「リーダーシップと発信力」が極めて重要になる。
どんなに優れたマニュアルがあっても、現場が安心できるのは「トップがどう考え、どう行動するか」を示したときだ。

ある医科クリニックでは、感染報告を受けた直後に院長が全職員宛に動画メッセージを送った。
「今回の件は責めることではなく、守るための行動です。感染者を特定したり責めたりしないように」
というメッセージが伝わり、職員の動揺は最小限で済んだ。

逆に、情報を出し渋ったり、隠ぺい的な対応を取った場合、職員の信頼を失い、退職や内部告発に発展することもある。
院長は常に「透明性を保ちながら、安全と信頼の両立を図る」という姿勢を示すことが求められる。


4. 今後の医療機関に求められる「平時からの備え」

感染症対応は、一過性の危機管理ではない。今後も新たな感染症やクラスター発生のリスクは続く。
そのたびに場当たり的に動くのではなく、平時からの備えが組織力を左右する。

今後取り組むべき課題として、次の3点を挙げたい。

  1. 感染症発生対応マニュアルの整備と定期訓練
     年1回はシミュレーションを行い、報告・指示系統の確認を行う。

  2. 個人情報保護と情報発信体制の整備
     院長・事務長・広報担当など、誰がどの段階で外部対応を行うかを明確にしておく。

  3. 労務管理上のルールの明文化
     感染時・濃厚接触時・自主待機時などの勤務・賃金扱いを、就業規則または別途規程に明記しておく。

これらを整えておくことで、万が一感染症が発生しても、「ルールに基づいて動ける組織」へと変わる。
混乱を防ぐ最大の手段は、「準備」と「信頼」の積み重ねである。


まとめ

感染症発生時の混乱は、情報の不足や判断の遅れ、そして組織内の不信感から生じる。
正確な情報をもとに、冷静で透明な対応を取るためには、法的・労務的な観点からの整備が欠かせない。
社労士としては、就業規則・感染症対応規程・危機管理マニュアルの見直しを定期的に行い、スタッフ教育にまで落とし込むことを強く推奨する。


 

医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
https://www.medical-sr.jp/

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