〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12(鹿沼駅から徒歩5分/駐車場:あり)
受付時間
歯科クリニックにおいて、自費診療は経営を支える大きな柱となります。保険診療の点数だけでは十分な収益を確保できないため、予防歯科、インプラント、矯正、ホワイトニングなどの自費メニューをどのように患者に提案していくかは、院長にとって大きな関心事です。
ところが、この「自費診療のセールストーク」をめぐって現場で働くスタッフが大きな負担を感じているケースが少なくありません。私は医療機関の労務顧問として多くの歯科クリニックを見てきましたが、経営と現場の温度差が最も表れやすいテーマの一つだと実感しています。
ある歯科クリニックでは、院長が「もっと自費診療の説明を積極的にしてほしい」とスタッフに繰り返し指示を出していました。
「保険診療だけでは赤字になる。患者さんにとってもより良い治療を提案しているのだから、しっかり伝えてほしい」というのが院長の想いです。
一方で、歯科衛生士や受付スタッフからはこんな声が聞こえてきました。
「営業トークをしているようで気が引ける」
「患者さんから“お金のことばかり”と言われたらどうしようと不安になる」
「説明の仕方がわからないのに、数字だけ追求されるのはつらい」
実際に、セールストークに苦手意識を持ったスタッフが退職してしまう事例もありました。
スタッフが「自費診療の説明=負担」と感じるのには、いくつかの背景があります。
教育不足
「どう説明すればよいか」というマニュアルや研修が不十分で、現場任せになっている。
インセンティブの不在
成果を上げても給与や評価に反映されないため、やらされ感が強まる。
患者との信頼関係への懸念
「利益優先」と誤解されることへの恐れが、説明の積極性を奪う。
業務範囲のあいまいさ
衛生士が説明すべきか、院長がすべきかの線引きがなく、責任が曖昧になる。
こうした要素が重なることで、スタッフの心理的な負担が大きくなり、結果的に離職やモチベーション低下につながってしまいます。
私が顧問として関わったあるクリニックでは、院長が「今月は自費率を20%に上げよう」と毎月のミーティングで強調していました。しかしスタッフからは反発が強まり、ある日ついに歯科衛生士から「私たちは営業マンではありません」との声が上がりました。
原因を整理すると、
自費メニューの資料が古く、患者への説明が難しい
成果を上げても給与は変わらない
院長が忙しく、自ら説明する時間を確保していない
といった点が浮き彫りになりました。
このクリニックでは、解決策として以下を実施しました。
自費メニューのパンフレットを更新し、説明の補助資料を整備
「誰がどの段階で説明するか」をフローチャート化
成果に応じて評価面談で取り上げる仕組みを導入
するとスタッフも「ただ押し売りするのではなく、患者さんに合った治療を紹介する」という意識に変わり、結果として自費率が安定的に向上しました。
社労士としては、以下の点に注意することを提案しています。
業務指示と評価制度の整合性
「自費を説明してほしい」と言うなら、人事評価制度にその要素を組み込む必要があります。成果が賃金や評価に反映されなければ不公平感が生まれます。
教育研修の位置づけ
セールストークを強制するのではなく、カウンセリング技術や接遇スキルとして体系的に研修を実施することが重要です。
責任分担の明確化
院長が一次説明、衛生士が補足、受付が費用説明といったように、段階を明確にすると混乱が減ります。
心理的安全性の確保
「説明したのに患者に断られたら叱責される」といった空気は逆効果です。プロセスを評価する仕組みを整えることが大切です。
自費診療の提案は、クリニック経営に不可欠なテーマです。しかし、スタッフにとって「数字を追わされる」「営業させられている」という感覚が強まれば、離職やモチベーション低下を招きます。
一方で、仕組みを整え、教育・評価・責任分担を明確にすれば、スタッフも安心して患者に説明できるようになります。結果的に患者満足度も高まり、クリニック経営の安定につながります。
経営者とスタッフ双方が納得できる「自費診療の説明体制」を築くことが、これからの歯科クリニックに求められる姿勢だと感じています。
医療(医科歯科)クリニック専門
特定社会保険労務士 鈴木教大
https://www.medical-sr.jp/
お電話でのお問合せ・相談予約
<受付時間>
9:00~17:00
※土曜日・日曜日・祝日は除く
フォームは24時間受付中です。お気軽にご連絡ください。