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デンタルクリニックの経営において、院長のリーダーシップは非常に大きな意味を持ちます。理念を掲げ、診療方針を定め、患者に最適な医療を提供するためには、経営者としての強い意思決定力が求められるのは事実です。しかし一方で、院長のワンマン経営が過度になると、スタッフのモチベーション低下や職場環境の悪化を招き、結果として「離職リスク」を高める大きな要因となってしまいます。
私は社会保険労務士として、数多くのデンタルクリニックの労務相談を受けてきました。その中で、院長の強い個性が組織の活力を奪い、人材が定着しないというケースに直面することが少なくありません。今回はその実例を交えつつ、問題点と改善の方向性についてお話します。
ある歯科衛生士からの相談で、「昨日はこうしろと言われたのに、今日は全く逆の指示を受けた」という話を伺ったことがあります。指示が日替わりで変わるため、スタッフは「結局何が正解なのか」が分からなくなり、不安と不満を募らせていました。院長の頭の中では一貫した方針があったのかもしれませんが、それが言語化されず、共有もされないまま場当たり的に指示が飛ぶと、現場は混乱に陥ります。
スタッフの評価が「院長に好かれるかどうか」で決まってしまうケースもあります。勤務態度や患者対応よりも、院長の機嫌を損ねないことが重視される環境では、真面目に働くスタッフが報われず、徐々にやる気を失います。結果として「頑張っても評価されないなら辞めよう」と優秀な人材から離職していく悪循環が生まれます。
診療メニューの導入や備品の購入、人員配置など、すべて院長一人が決定し、スタッフの意見は一切取り入れられない――。こうした環境では、スタッフは「どうせ何を言っても無駄」と感じ、発言を控えるようになります。その結果、現場で起きている問題が院長に届かず、トラブルが大きくなってから露見することも少なくありません。
あるクリニックでは、院長がとにかく強権的で、日常的にスタッフへ厳しい叱責を繰り返していました。指示の内容も一貫せず、記録の方法から患者への声掛けまで逐一修正を求めるため、スタッフは常に萎縮。最終的に数か月の間に歯科衛生士が4名中3名退職し、残った1名も疲弊しきっていました。新規採用も進まず、診療を縮小せざるを得ない事態となり、経営そのものが危機に陥ったのです。
別のクリニックでは、院長が毎日のように「どうしてこんなこともできないのか」と受付スタッフを人前で叱責していました。その結果、経験豊富で患者からの信頼も厚かったスタッフが一斉に退職。新しく入った未経験者だけでは電話応対や予約管理がうまくいかず、患者からのクレームが急増。結果的に、地域での評判が大きく低下してしまいました。
院長がワンマン化してしまう背景には、「患者に最善の治療を提供したい」という強い使命感や、「経営者として失敗できない」というプレッシャーがあります。決して悪意からではなく、真剣さの裏返しである場合も少なくありません。
しかし、その真剣さが「スタッフを信じられない」という形で表れ、過度な管理や独断専行につながってしまうのです。院長自身は「自分が頑張らなければ」という気持ちかもしれませんが、結果としてスタッフを疲弊させ、組織力を弱めてしまうのです。
頭の中の方針や理念を、就業規則やマニュアル、定期ミーティングの形で明文化し、スタッフと共有することが重要です。スタッフは「何を求められているのか」を理解することで安心して行動できます。
評価が院長の気分ではなく、客観的な基準で行われる仕組みを作ることが必要です。例えば「患者アンケート」「業務達成度」「勤務態度」などを明確に定義し、院長とスタッフの双方が納得できる基準を整えることが効果的です。
定期的な面談や匿名アンケートを実施し、現場の声を吸い上げる工夫が必要です。スタッフの意見を経営に反映することで「このクリニックで働き続けたい」という定着意識が生まれます。
社会保険労務士など外部の専門家を交えることで、院長の意見だけでなく中立的な視点を取り入れることができます。第三者の存在はスタッフにとっても安心感につながり、組織全体の信頼関係を回復させるきっかけとなります。
デンタルクリニックにおける院長のワンマン経営は、短期的にはスピード感を生み出すかもしれません。しかし長期的にはスタッフの離職リスクを高め、経営基盤そのものを揺るがす大きなリスクとなります。
人材不足が深刻化する歯科業界において、優秀なスタッフを失うことはクリニックの存続に直結する問題です。院長が一歩引いて「組織で経営する」という視点を持つことが、安定した経営と患者満足度の向上につながるのです。
医療(医科歯科)クリニック専門
特定社会保険労務士 鈴木教大
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