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私は医療・歯科クリニック専門の社会保険労務士として、数多くの医院の労務管理をサポートしてきました。その中で頻繁に耳にするのが「スタッフ同士の情報共有不足」によって起こるトラブルです。診療という限られた時間の中で患者対応を円滑に進めるためには、受付・歯科助手・歯科衛生士・院長の間で正確かつタイムリーな情報が共有されることが欠かせません。しかし、現実には「伝わっていると思っていた」「誰かがやっていると思った」という認識のズレから、多くの混乱が生じています。ここでは、私が実際に顧問先で見聞きした事例を交えながら、その背景と改善のヒントを整理してみます。
あるクリニックでは、受付スタッフが急患対応で予約枠を入れ替えた際、その変更が院長や衛生士に十分伝わっていませんでした。その結果、院長は通常の予約通りに診療を進め、衛生士は「次はAさん」と準備を整えていたのに、実際に来院したのはBさん。現場は一時的に混乱し、患者さんを長時間待たせる事態となりました。患者からのクレームにつながり、スタッフ間では「なぜ伝えてくれなかったのか」という責任の押し付け合いが発生しました。
別の医院では、院長が患者へ「次回はクリーニングを行いましょう」と伝えたものの、衛生士への申し送りがされず、次回来院時に再び同じ説明を行うことになりました。患者から「この前も同じ説明を聞いたが、結局どうなっているのか」と不信感を抱かれ、結果的に転院に至ったケースもありました。情報の断絶は、患者離れという大きなリスクに直結します。
労務管理の視点では、スタッフの退職や休職に関する情報も重要です。あるクリニックでは、受付スタッフが院長に「実は退職を考えています」と相談していたものの、他のスタッフには一切共有されず、突然の退職日直前になって判明。シフト調整や引き継ぎができず、現場は混乱し残されたスタッフの負担が急増しました。このとき、院長は「個人情報だから言えなかった」と考えていましたが、少なくとも業務上必要な範囲での情報共有が不可欠です。
私が関与したクリニックを分析すると、情報共有がうまくいかない原因にはいくつかの共通点が見られます。
口頭伝達への依存
「伝えたつもり」「聞いたつもり」が多く、記録が残らないため認識にズレが生じやすい。
役割分担が曖昧
受付・助手・衛生士のどこまでが自分の責任か不明確で、「誰かがやっているだろう」という思い込みが発生する。
院長のトップダウン不足
院長が「皆でやってほしい」と曖昧に指示するだけで、具体的にどの情報をどのツールで共有するかを明示していない。
情報量の過多・不足
一部のスタッフだけに情報が集中してしまい、他スタッフには必要最低限すら伝わらないことがある。
人間関係の影響
特定のスタッフ間で仲が悪いと、意図的に情報を伝えない、あるいは後回しにするというケースも見受けられます。
私は顧問先で、単なる「仲良くしてください」という精神論ではなく、仕組みとして情報共有を促す仕掛けを導入するよう提案しています。
短時間でも毎日、当日の予約状況や患者への申し送り事項を確認する時間を設けることで、伝達漏れを防ぎます。
紙の連絡ノートやホワイトボードだけでなく、最近はLINE WORKSやGoogleスプレッドシートなど、簡単に更新できるツールを導入する医院も増えています。記録が残るため、責任の所在も明確になります。
「予約変更は必ず受付がホワイトボードに書く」「院長が治療方針を伝えた場合は、衛生士に口頭+カルテ記入で共有」といった具体的なルールを就業規則や業務マニュアルに落とし込みます。
退職や休職の意向などセンシティブな情報も、必要な範囲で共有できるルールを設ける必要があります。例えば「シフト調整に関わる場合は院長が代表して周知する」など、個人のプライバシーを守りつつ業務を守る工夫が必要です。
月1回程度のミーティングで「先月の情報共有でトラブルになった点」を洗い出し、改善につなげることで、継続的に精度が高まります。
情報共有不足は単なる「職場内の小さな行き違い」にとどまりません。
患者満足度の低下:不信感やクレーム、転院リスク。
スタッフの不満蓄積:責任の押し付け合いから人間関係が悪化。
離職率の上昇:情報不足によるストレスで「働きづらい」と感じる。
院長の信頼低下:スタッフから「リーダーシップがない」と見なされる。
最終的には医院全体の経営リスクにつながります。だからこそ、労務管理の観点からも「情報共有の仕組みづくり」は避けて通れない課題なのです。
デンタルクリニックは小規模な組織でありながら、受付・助手・衛生士・院長が異なる役割を持ち、それぞれが密接に連携しなければ診療は成り立ちません。情報共有不足は、患者サービスの低下、スタッフ間の人間関係の悪化、離職や経営リスクへと直結します。社労士として現場を見てきた私は、精神論ではなく「仕組み化」と「ルール化」による改善こそが重要だと確信しています。日常の小さな積み重ねが、大きな信頼と安定経営につながるのです。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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