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私は医療・歯科クリニック専門の社会保険労務士として、多くの現場を訪問してきました。その中で、院長先生や幹部スタッフから「スタッフ同士の人間関係トラブルが深刻化していて困っている」というご相談を受けることが少なくありません。特に近年増えているのが、スタッフ間でのハラスメント(パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント) に関する問題です。
一般企業でも話題になるテーマですが、デンタルクリニック特有の環境が事態を複雑にしています。今回は、私が顧客先で実際に見てきた事例をもとに、この問題の背景と解決の糸口をお伝えしたいと思います。
歯科クリニックの現場は、小規模な職場・女性スタッフが多数・密接なコミュニケーション という特徴があります。診療の合間や受付・アシスト業務ではチームワークが欠かせない一方で、相性や立場の違いによる摩擦が生じやすいのです。
さらに、院長先生ご自身は診療に専念する時間が多いため、スタッフ間の人間関係の細かい軋轢に気づきにくい という構造的な問題もあります。その結果、スタッフ間での陰口や無視、過剰な指導がエスカレートし、ハラスメントに発展するケースが少なくありません。
あるデンタルクリニックでは、若手の歯科衛生士(以下、DH)が入社して数か月で退職してしまうという事態が続いていました。原因を探るべく院長先生が面談を行ったところ、驚くべき事実が浮かび上がりました。
そこには、長年勤務するベテランDHによる過剰な叱責や無視 が存在していたのです。新人が少しでも器具の準備を間違えると「そんなこともできないの?」と強い言葉で責め立て、昼休みも一緒に食事をとらない。さらには「あなたのせいで診療が遅れる」と患者の前で注意することもありました。
院長先生は「彼女はクリニックにとって欠かせない存在だから」と見て見ぬふりをしてきましたが、結果として若手が定着しない状態に陥り、採用コストや教育の労力が無駄になっていました。私は第三者として事実を整理し、パワハラの実態を院長先生にフィードバック しました。そのうえで、本人との面談を設定し、「指導」と「人格否定」の違いを理解してもらう研修を実施しました。
別のクリニックでは、受付スタッフの女性から「同僚の男性スタッフから不適切な発言がある」と相談を受けました。具体的には「今日の服装、色っぽいね」「結婚しないの?」といった言動が繰り返されていたのです。本人は軽い冗談のつもりだったようですが、受け手からすれば明らかなハラスメントでした。
小規模クリニックでは、こうした問題を内部で相談できる窓口がなく、被害者が我慢してしまうケースが大半です。しかし、放置すると離職や労働局への相談につながり、クリニックの評判にも影響します。この事例では、ハラスメント相談窓口の設置と、全スタッフ対象のハラスメント研修 を実施しました。院長先生が「私自身も含めて全員で学ぶ」と姿勢を示したことで、スタッフの安心感が高まりました。
多くの院長先生は「診療に集中したい」「人間関係のトラブルに首を突っ込みたくない」という本音を持っています。しかし、ハラスメントを放置すれば スタッフの定着率低下・クリニックの評判悪化・最悪の場合は訴訟リスク に直結します。
パワハラ防止法により、事業主はハラスメント防止措置を講じる義務を負っています。規模の大小にかかわらず、歯科クリニックも対象です。つまり、院長先生は「知らなかった」「小さな医院だから」で済まされない立場にあるのです。
私が関与する際には、次のようなステップで進めています。
現状把握
スタッフ面談や匿名アンケートを通じ、ハラスメントの実態を把握。
ルール整備
就業規則に「ハラスメント防止規程」を明記し、相談窓口を設置。
教育・研修
全スタッフを対象に、具体的な言動例を示したハラスメント研修を実施。
対応フローの明確化
相談があった際の調査手順、事実確認、是正措置の流れを文書化。
定期的な振り返り
半年~1年ごとにアンケートを実施し、改善度を測定。
これらを行うことで、スタッフが安心して働ける環境を整え、院長先生自身もトラブルを未然に防ぐことができます。
デンタルクリニックにおけるハラスメントは、「大病院の話」「他院の話」ではなく、どこでも起こり得る問題です。特にスタッフ同士の関係性に起因するケースは、院長先生の目に届きにくいからこそ、早めの対応が重要です。
私は数多くの現場で、ハラスメントを放置した結果、優秀な人材が辞めてしまい、その後の採用難に悩むクリニック を見てきました。逆に、問題が発生した時点で誠実に対応し、ルールを整えた医院は、スタッフの信頼を得て長期的に安定しています。
院長先生にはぜひ、「小さな火種のうちに消す」という意識を持っていただきたいと思います。そのためにも、専門家と一緒に仕組みを作ることが、クリニック経営を守る最良の投資となるのです。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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