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私は医科・歯科クリニックを専門に労務管理を支援している社会保険労務士として、日々さまざまなご相談を受けています。その中で特に多いテーマのひとつが「有給休暇の取りづらさ」です。
有給休暇は労働基準法で保障された労働者の権利であり、2019年4月からは年10日以上の有休が付与される労働者について、年5日の取得が義務化されています。しかし実際のデンタルクリニック現場では、「制度としては理解しているが、現実的に取れない」という声が根強く存在します。ここでは私が顧客先で実際に見聞きした事例を交えながら、その原因と解決のヒントについてご紹介します。
デンタルクリニックは、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付といった限られた人数で成り立っています。例えばスタッフが6~7名規模のクリニックでは、一人欠けるだけで診療の流れが滞り、予約を断らざるを得なくなることもあります。そのため「誰かが休むと自分に負担が来る」という意識が強く、職場全体に休みを取りにくい雰囲気が生まれてしまいます。
ある歯科衛生士の方から伺った話では、院長が直接「有休を取るな」と言うことはありません。しかし「来週はインプラント手術が立て込んでいる」「予約キャンセルが出たら困る」といった発言が繰り返されるうちに、スタッフが自主的に申請を控えてしまう状況になっていました。
このように、法律で定められた権利よりも「現場の空気」が優先されがちなのが小規模クリニックの特徴です。
大病院では派遣やパートの応援を依頼することが可能ですが、地域のデンタルクリニックではそのようなネットワークを持っていないケースが多くあります。結果的に「休まれると現場が回らない」という理由で、スタッフが有休を申請しにくい状況が続いてしまうのです。
ある地方都市のクリニックで、歯科衛生士が「子供の学校行事に参加したいので有休を取りたい」と希望しました。しかし院長から「その日は予約がびっしりだから無理」と却下され、結果的に本人は欠勤扱いで休むことになりました。その後も同様のことが続き、ついにその衛生士は退職を決断しました。
院長は「患者第一」を考えての判断でしたが、労務の視点からすれば有給休暇の拒否は違法であり、スタッフの離職を招く大きなリスクとなります。
別のクリニックでは、衛生士が複数人おり、全員が「有休が取りづらい」と不満を抱えていました。そこで私は勤務シフトの作り方を院長と一緒に見直しました。月ごとに「有休希望日申請日」を設け、スタッフ同士で希望を調整したうえで院長が承認する仕組みに変更したのです。さらに繁忙期と閑散期を把握して、閑散期には積極的に有休を取得させる方針をとりました。その結果、スタッフが安心して申請できるようになり、離職率も下がりました。
ある院長は「有休なんて与えると患者対応ができなくなる」と強く主張していました。しかし、労基署の調査を受けた際に有休の取得義務について是正勧告を受けました。その後、私と一緒に院内研修を行い「有給休暇はスタッフの権利であると同時に、心身のリフレッシュにより医療サービスの質を維持するための制度」という意義を学びました。以降、院長は率先して有休を取るようスタッフに促し、職場の雰囲気が大きく改善しました。
私が複数のクリニックで実践してきた中で効果的だった施策をご紹介します。
シフト作成時点で有休取得を織り込む
月初に「希望休・有休申請」を集めて勤務表に反映する。後から申請を受けるのではなく、最初から予定に組み込むことでスムーズになります。
代替要員リストを整備する
非常勤スタッフや派遣会社とあらかじめ契約しておき、急な有休にも対応できる体制を作ります。小規模だからこそ外部資源を有効に活用することが重要です。
院長が有休を尊重する姿勢を示す
「有休は当然の権利」というメッセージを院長が発信するだけで、職場の空気は大きく変わります。特にトップの言動はスタッフの行動に直結します。
繁忙期・閑散期の見える化
患者の来院傾向をデータ化し、比較的余裕のある時期に有休を集中させるなど、計画的な運用を進めることが可能です。
デンタルクリニックにおける有給休暇の取りづらさは、少人数体制や院長の意識、代替要員の不足といった構造的な要因から生じています。しかし「取れないのが当たり前」という状況を放置すれば、スタッフの不満や離職につながり、最終的には患者サービスにも悪影響を及ぼします。
私が関与した数多くの事例から言えることは、**「仕組みと意識の両輪で改善することが不可欠」**ということです。勤務シフトの工夫、外部人材の活用、院長の姿勢変革など、小さな取り組みの積み重ねが、有休の取りやすい職場文化をつくります。
有給休暇は単なる法律上の義務ではなく、スタッフの働きがいと患者への安心を両立させるための大切な制度です。歯科クリニックこそ積極的に運用し、持続的な経営基盤を築いていただきたいと考えています。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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