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歯科クリニックにおいては、院長一人で経営を担うケースだけでなく、院長とその配偶者が二人三脚で運営しているケースも多く見受けられます。配偶者が副院長、事務長、もしくは経営パートナーとして関与することで、資金管理や人事管理がきめ細やかに行えるという利点があります。ところが、夫婦経営には独特の「人間関係のトラブル」が発生しやすいという側面もあり、私自身も複数のデンタルクリニックで深刻な相談を受けてきました。
以下では、実際に顧問先で経験した事例を交えながら、夫婦経営がもたらす人間関係上の課題とその解決策について解説していきます。
あるクリニックでは、院長が診療を担当し、奥様が事務長として人事・経理を取り仕切っていました。しかし、役割分担が明確にされていなかったため、スタッフからすると「院長と奥様、どちらの指示を優先すべきか」が分からない状況になっていました。
例えば、院長は「患者対応を優先して、掃除は診療後に回してよい」と指示したのに対し、奥様は「まずは掃除を徹底し、患者に清潔感を示すことが最優先」と指示を出す。スタッフは板挟みとなり、最終的には両者の顔色をうかがうようになってしまいました。
このようなケースでは、院長夫婦間の意思統一ができていないことが根本原因です。社労士として介入した際には、院長と奥様に同席いただき、役割と権限の線引きを「文書」で明確化しました。
医療行為や診療運営の判断は院長
人事労務管理や経理に関する最終決定は奥様
とルール化することで、スタッフも安心して行動できるようになり、トラブルは収束していきました。
別のクリニックでは、夫婦間のプライベートな不和が診療中にも表面化していました。スタッフの前でお互いを非難したり、患者の前で不機嫌な態度を見せたりすることもあり、スタッフは強いストレスを感じていました。
スタッフが私に相談したときには「もう院長夫妻に振り回されるのは嫌だ」「職場に行くのが憂鬱」という声が相次いでいました。結果的に優秀な歯科衛生士が複数名離職し、採用難の中で大きな経営打撃を受けることになりました。
こうした場合、社労士としてできることは「経営者としての立場を自覚していただくこと」です。院長夫婦に対しては、
職場は家庭問題を持ち込む場所ではない
スタッフにとって院長夫妻は「雇用主」であることを忘れてはならない
ということを強くお伝えしました。また、夫婦間の意見の衝突を業務に影響させないために、話し合いの場を週1回設けて「院長夫婦だけで議論を完結させる」習慣を取り入れるよう助言しました。
夫婦経営のクリニックでは、スタッフが自然と「院長派」「奥様派」に分かれてしまうこともあります。あるクリニックでは、院長が穏やかでスタッフから人気がある一方、奥様が厳しく指導するタイプだったため、若手スタッフは院長寄り、ベテランスタッフは奥様寄りと分かれてしまいました。
この派閥構造が強まると、情報共有が滞ったり、業務の連携がスムーズにいかなくなったりします。表面上は問題がなくても、水面下では不満が蓄積し、突然の退職やトラブルに発展するリスクがあります。
私が提案した解決策は、「経営方針や人事方針を全員参加の場で共有すること」でした。毎月のミーティングで院長と奥様が揃って経営方針を発表し、その場でスタッフの質問や意見を受け付けるようにしました。結果として、「院長と奥様の意見は食い違っていない」という安心感が生まれ、派閥意識は薄れていきました。
夫婦経営はトラブルの原因にもなりますが、逆に強みとして機能させることもできます。例えば、院長が診療に専念できるのは、配偶者が経営管理をしっかり支えているからこそです。また、夫婦の価値観を共有できている場合、意思決定が早く、スタッフにとっても安心感があります。
重要なのは、「夫婦関係をスタッフに押し付けない」「経営者としての立場を忘れない」という姿勢です。役割分担を明確化し、方針を統一することで、夫婦経営のメリットは最大限に発揮されます。
院長夫婦による経営は、日本の歯科クリニックにおいて決して珍しい形態ではありません。しかし、そこには人間関係に起因する独特の課題があります。
指示が二重になり、スタッフが混乱する
夫婦喧嘩が職場に持ち込まれる
スタッフが派閥化する
こうしたトラブルは、いずれも労務環境の悪化につながり、離職や経営リスクに直結します。
社労士の立場から言えるのは、「夫婦経営だからこそ、ルールと仕組みを整える必要がある」ということです。家庭的な温かみと、組織としての厳格さを両立できるような体制を整えることで、クリニックはより持続的に成長していくことができます。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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