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近年、歯科業界では「歯科衛生士の採用難・定着難」が深刻な課題となっています。私が顧問を務める複数の歯科クリニックでも、採用活動が長期化したり、せっかく採用できた若手が短期間で離職してしまうという声を頻繁に耳にします。本記事では、実際に現場で見た事例を交えながら、この問題の背景と対応策についてお伝えしたいと思います。
まず押さえておきたいのは、歯科衛生士の人材不足は一時的な問題ではなく、業界全体の構造的な課題であるという点です。
厚生労働省の統計によれば、歯科衛生士の有資格者は年々増加しているものの、実際に就業している割合は約6割程度にとどまります。資格を取得しても結婚・出産を機に退職し、その後復職しないケースが非常に多いのです。
私が顧問先で確認したところでも「ハローワークに求人を出しても応募が来ない」「人材紹介会社に依頼しても紹介料が高額で負担が大きい」といった声が多く、結果的に院長や既存スタッフの負担が増大してしまう悪循環が見られます。
東京都内のある歯科クリニックでは、予防歯科に注力する方針を掲げ、歯科衛生士を複数名採用したいと考えていました。ところが、求人広告を半年間出し続けても応募はゼロ。理由を探ると、同じエリアにある他院が月給を数万円高く設定していたこと、また週休3日制を導入していたことがわかりました。
つまり「条件比較」が容易にできる都市部では、求職者がより良い待遇を選びやすいため、従来の給与水準や働き方のままでは全く太刀打ちできないのです。
一方、地方都市のクリニックでは「応募すら来ない」という深刻な状況があります。人口減少により歯科衛生士学校の卒業生数が減っている地域では、求人を出しても反応がなく、やむを得ず院長がスケーリングまで対応しているケースも見られました。採用が叶わないため既存スタッフに業務が集中し、離職が加速する悪循環が生まれていました。
採用できたとしても、定着が難しいのが現実です。
あるクリニックでは、新卒で入職した歯科衛生士がわずか3か月で退職しました。理由は「教育体制が整っておらず、先輩が忙しすぎて教えてもらえなかった」というもの。
社労士として院長にヒアリングしたところ「即戦力を期待していた」という認識のずれが明らかになりました。新卒採用においては、教育体制を整備しなければ短期離職に直結することを痛感した事例です。
子育てを終えて復職した歯科衛生士が、半年で退職したケースもあります。理由は「急な子どもの体調不良で休みにくい」「時短勤務が認められなかった」というもの。柔軟な働き方が可能でなければ、せっかく復職しても続けられないのです。
こうした事例から、歯科衛生士の採用・定着難には以下の要因が絡んでいることがわかります。
給与水準の地域差と比較可能性
勤務条件(週休・残業・シフト柔軟性)へのニーズの高まり
教育体制の不足による新卒離職
ライフステージに応じた働き方の欠如
これらは単に「給与を上げれば解決」というものではなく、制度設計や職場環境の改善が必要となります。
私が関わったクリニックで、一定の成果を上げた取り組みを紹介します。
週休3日制の導入
給与は据え置きでも「ワークライフバランス」を重視する層に響き、応募数が倍増しました。
教育マニュアルとメンター制度
新卒者に対して、先輩歯科衛生士がOJT形式で指導する体制を整備。安心感が生まれ、1年以内の離職率が大幅に低下しました。
子育て世代向けの時短正社員制度
午前のみ勤務や週3勤務を選択できる仕組みを導入。復職希望者が安心して応募でき、結果的にスタッフ不足の解消につながりました。
キャリアアップ支援
セミナー参加費用を医院負担とし、スキルアップを評価制度に反映。成長実感を持てる環境を提供することで、定着率が改善しました。
歯科衛生士の採用難・定着難は、もはやどのクリニックにとっても避けられない課題です。しかし、採用できない・定着しないと嘆くだけでは状況は変わりません。
社労士として数多くの現場を見てきた実感としては、「人が集まる職場には必ず理由がある」ということです。
給与だけでなく、働き方の柔軟性、教育体制、キャリア支援といった要素を整備することで、応募者の関心を引き、既存スタッフの満足度を高めることができます。
人口減少と資格者数の頭打ちが避けられない中で、「選ばれるクリニック」へと変革できるかどうかが、生き残りのカギを握っているのです。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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