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近年、医療・介護・保育といった専門職の現場では、専門学校を卒業したばかりの若手スタッフの早期離職が深刻な課題となっています。社会保険労務士として医療機関や福祉施設の労務管理に携わる中で、「せっかく採用した人材が1年もたたずに退職してしまう」という声を数多く耳にしてきました。その背景には給与水準や労働条件といった要素もありますが、実際には教育体制の不足が大きな原因となっているケースが目立ちます。
以下では、私が現場で見てきた事例を交えながら、教育体制の不備がどのように早期離職につながるのかを解説し、改善の方向性を提示したいと思います。
ある歯科クリニックでは、専門学校を卒業した歯科衛生士を3名採用しました。ところが、半年も経たないうちに2名が退職してしまったのです。院長先生は「最近の若者は忍耐力がない」と嘆いていましたが、退職理由をヒアリングしてみると事情は違いました。
新人衛生士たちは、先輩スタッフからの体系的な指導を受けられず、毎日「見て覚えて」「とりあえずやってみて」という指示ばかり。治療の流れを把握できないまま患者対応に入らされ、不安と失敗の連続でした。やがて「自分はこの職場に向いていない」と思い込み、退職を決意したのです。
これは典型的なOJT依存型教育の失敗例です。現場任せの教育は即戦力化を期待できる一方で、教える側に余裕がなければ「放置」に近い状態になり、若手に過度な心理的負担を与えてしまいます。
別の介護施設では、専門学校卒の介護職員が入社直後から先輩に付き添って業務に入りました。ところが、指導する先輩によって教え方が異なり、日によって注意される内容もバラバラ。「昨日はAさんにこう言われたのに、今日はBさんに真逆のことを言われた」と混乱が続き、自信を失ってしまったのです。
結局、その新人は「もう迷惑をかけるのがつらい」と1年も経たずに退職しました。施設側は「本人のやる気が足りなかった」と片付けましたが、私から見れば教育マニュアルの欠如が根本原因でした。教える人によって基準が異なれば、学ぶ側が混乱するのは当然です。
こうした教育体制の不備は、単に新人が辞めてしまうという人材流出の問題にとどまりません。
採用コストの損失
求人広告費、面接にかけた時間、入社手続きや研修にかかった労力がすべて無駄になります。
残ったスタッフの負担増
新人が辞めれば、既存スタッフが再び教育に追われ、疲弊感が強まります。
職場の雰囲気悪化
「どうせ新人は続かない」という諦めムードが広がり、組織の成長が止まります。
事業の発展阻害
人が育たない職場は新しい事業展開やサービス拡大が難しく、長期的な経営リスクになります。
社労士として関与した現場では、次のような取り組みを導入することで改善につながったケースがありました。
業務の基本手順や指導方針をマニュアル化することで、誰が指導しても一定の基準で教育が行えるようにします。完璧なものを最初から作る必要はなく、まずは「新人が最初の1か月で覚えることリスト」から始めるだけでも効果があります。
新人一人ひとりに担当の先輩をつける仕組みです。相談窓口がはっきりすることで安心感が生まれ、「誰に聞いたらいいかわからない」という不安が解消されます。
1か月ごとに院長や上司が新人と面談し、困っていることや成長を一緒に確認する場を設けます。これにより、不安が大きくなる前に解決策を提示できます。
教育を担当する先輩スタッフに対しても、評価や手当を設けることで「教えることが負担」ではなく「自分の役割」と認識してもらえます。
私が支援してきた複数のクリニックや施設で感じるのは、「若手の早期離職=本人の問題」ではないということです。むしろ教育体制の整備は経営者の責任であり、組織文化そのものを映し出します。
ある歯科医院では、教育プログラムを導入したことで新人衛生士の定着率が大幅に改善しました。以前は1年以内の離職率が50%を超えていましたが、仕組みを整えたあとは3年連続で定着率90%を維持できています。院長先生は「新人が安心して成長してくれるので、職場全体の雰囲気が明るくなった」と語っていました。
専門学校卒の若手スタッフが早期離職する背景には、給与や待遇以上に教育体制の不足が大きく影響しています。教育マニュアルの整備、メンター制度の導入、定期面談など、いずれも特別なコストをかけずに始められる取り組みです。
人材不足が続く医療・福祉業界においては、「採用」よりも「定着」の方が経営インパクトは大きいといえるでしょう。若手スタッフの成長を支える教育体制を整えることこそ、長期的に安定した組織運営のカギになります。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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