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デンタルクリニックにおける予防歯科・自費診療の歩合給設計ミスから学ぶ労務の落とし穴

近年、歯科医院の経営環境は大きく変化しています。保険診療の点数引き下げが続くなか、クリニックとしては「予防歯科」「自費診療」の比率を高めることで経営を安定させたいと考えるのは自然な流れです。その一方で、歯科衛生士や歯科助手に対して「売上連動の歩合給」を導入する医院も増えています。
私自身、社会保険労務士として複数のデンタルクリニックを顧問先に持っていますが、この歩合給制度の設計において失敗するケースを少なからず目にしてきました。以下では、実際にあった事例を交えながら「どのような設計ミスが生じやすいのか」「その結果どのような労務リスクが発生するのか」を解説します。


事例1:歯科衛生士が「患者の取り合い」に

ある都市部の歯科医院では、予防歯科の定期検診やメンテナンスを担当する衛生士の売上を個別に算定し、その売上の○%を歩合として支給する仕組みを導入していました。導入当初は衛生士のモチベーションが上がり、医院全体の売上も増加。しかし半年ほど経過したころ、職場に不協和音が生まれました。

「この患者さんは私が前回担当したのに、なぜ別の衛生士に回されたのか」
「自費のPMTCを勧めても、横取りされてしまう」

患者さんの囲い込みや、同僚同士の担当変更に対する不満が表面化し、人間関係がぎくしゃくしてしまったのです。
結果的に、歩合給が“協力関係”ではなく“競争関係”を強め、チーム医療に支障をきたしました。最終的には経験豊富なベテラン衛生士が退職し、医院は大きな痛手を被ることになりました。


事例2:固定残業代との誤解

別のクリニックでは、自費診療のインセンティブを「残業代込みの給与」として扱ってしまったケースがありました。院長は「歩合給を払っているから、残業代は出なくてもよいだろう」と誤解していたのです。

しかし、労働基準法上、歩合給と残業代はまったく別の概念です。歩合給は出来高払いの一種ですが、所定労働時間を超えて働いた場合には、歩合給を基礎にした割増賃金の計算が必要です。この理解が不足していたため、未払い残業代の問題が発覚。労働基準監督署の是正勧告を受ける事態となりました。

このケースでは「歩合給=成果報酬=残業代不要」という誤った解釈が大きなトラブルの原因でした。制度を導入する際には、必ず“歩合給の割増賃金計算方法”を就業規則に明記する必要があります。


事例3:患者満足度の低下

また、売上連動型の給与制度が必ずしも患者のためにならない、という問題もあります。
ある地方のクリニックでは、衛生士に「自費のホワイトニングやPMTCを提案すればするほど歩合が増える」仕組みを採用していました。すると、衛生士の多くが過剰に自費を勧めるようになり、一部の患者さんから「営業されているようで嫌だ」とのクレームが増加しました。

このクリニックでは最終的に、自費率が上がるどころか定期検診に来なくなる患者が増え、長期的には経営を悪化させる結果となりました。
ここから学べるのは、短期的な売上に直結する制度設計が、必ずしも医院のブランド価値や患者満足度に結びつくとは限らないという点です。


設計ミスが起きる背景

これらの事例から共通して見えてくるのは、歩合給制度の設計にあたり以下の点を軽視していることです。

  1. 労働法の理解不足
    歩合給の割増賃金計算を軽視し、未払いリスクを招く。

  2. チームワークへの配慮不足
    個人売上主義が、協働よりも競争を助長してしまう。

  3. 患者視点の欠如
    売上を優先するあまり、患者満足度や信頼を損なう。

  4. 評価基準の単一化
    「売上=評価」としてしまい、業務の質やホスピタリティを軽視する。

これらの問題は、制度設計をする際に「数字」ばかりを見てしまい、「人」や「職場の文化」を置き去りにしていることが原因と言えます。


社労士として提案した改善策

私が顧問先で提案してきた改善策の一部をご紹介します。

  • 売上以外の評価項目を組み込む
     例:患者満足度アンケート、キャンセル率低下、院内勉強会への貢献度など。

  • チームインセンティブ方式
     個人ではなく「衛生士チーム全体の売上」に応じて支給する仕組みを導入することで、協力関係を維持。

  • 歩合給と残業代の明確な区分
     就業規則に「歩合給の割増賃金算定方法」を記載し、給与計算システムで正しく反映させる。

  • 上限や基準額の設定
     過度に自費を押しつけることがないよう、歩合給には上限を設ける、または売上が一定ラインを超えて初めて支給する形をとる。

  • 説明責任の徹底
     制度導入前にスタッフ説明会を開き、給与体系の根拠や仕組みをしっかり共有する。


おわりに

歯科医院における歩合給制度は、うまく設計すればスタッフのモチベーションを高め、自費率を改善し、医院の収益を安定させる有効なツールとなります。
しかし、制度設計を誤れば、未払い残業代問題や職場の人間関係悪化、患者離れといった深刻なリスクを招きかねません。

社会保険労務士として現場で見てきた経験から強調したいのは、「歩合給制度は単なるお金の仕組みではなく、医院の文化づくりの一部である」ということです。スタッフが安心して働ける環境を整え、患者に信頼されるクリニックを維持するためには、制度導入の際に必ず労務専門家の視点を取り入れることを強くおすすめします。

医療(医科歯科)クリニック専門  特定社会保険労務士  鈴木教大
https://www.medical-sr.jp/

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