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歯科医療において、技工所との関係は切っても切り離せません。補綴物や義歯、インプラント上部構造など、多くの診療行為が歯科技工士の手による成果物に依存しています。そのため、技工所との契約や外注費用に関しては、クリニック経営の安定性に直結する重要課題といえます。
しかし、現場では契約関係が曖昧なまま長年の慣習で進められていることが多く、後になって費用トラブルや納期・品質を巡る問題に発展するケースを度々目にしてきました。今回は、私が社労士として医療機関の顧問を務める中で実際に見てきた事例を踏まえ、技工所との契約・外注費用にまつわる典型的なトラブルとその予防策を整理してみたいと思います。
ある歯科クリニックでは、長年付き合いのある技工所から「技工料が上がります」と突然告げられ、翌月から請求金額が2割以上増えていました。これまでは口頭のやり取りだけで金額を決めていたため、過去の費用推移や根拠を確認することができず、院長もスタッフも対応に困惑しました。
最終的には別の技工所に切り替えることになりましたが、患者への説明や納期の調整に大きな混乱が生じました。
このように、契約書や見積書を交わさずに“なあなあ”で続けてきた関係が、費用トラブルを引き起こす典型例です。
別のクリニックでは、繁忙期に技工物の納期が大幅に遅れる事態が発生しました。結果的に患者の予約を変更せざるを得ず、受付やアシスタントにしわ寄せがいき、スタッフの残業が急増しました。
このケースでは契約書に「納期遅延時の責任」についての規定がなく、クリニック側が泣き寝入りする形で追加コストを負担することとなりました。
労務管理の観点から見ると、外注トラブルがスタッフの労働時間やストレスに直結することは見逃せません。
技工所との間で、保険適用の範囲や算定ルールに対する理解の違いが原因で費用請求が不一致となるケースもあります。
例えば、ある技工所が「自費扱い」として請求したものが、クリニック側では保険算定を想定して患者へ説明していた、という事例です。この齟齬が患者の不信感を招き、クレーム対応に追われることになりました。
ここでは、算定ルールや保険適用範囲を技工所とも共有しておく仕組みづくりが不可欠だと痛感しました。
これらの事例を踏まえ、技工所との契約・費用トラブルを予防するために次の点が重要です。
契約書を必ず交わす
技工料金、支払条件、納期、瑕疵対応などを明文化する。
口頭や慣習に頼らず、双方が確認できる書面を残すこと。
費用の透明性を確保する
定期的に見積書・価格表を提示してもらい、改定時は書面で通知を受ける。
内部でもコスト管理を行い、過去との比較を容易にする。
納期と品質に関するルール作り
納期遅延時の対応策(遅延損害金や優先対応の約束など)を取り決める。
品質基準を明確にし、再製作時の費用負担をどちらが持つかを定める。
レセプト・算定ルールの共有
保険算定の可否や自費の扱いについて、事前にすり合わせておく。
スタッフ教育にも反映させ、患者説明と技工費請求が一致するようにする。
一見すると技工所との契約は“経営上の取引問題”に見えますが、実際にはスタッフの働き方や患者満足度にも直結する労務課題です。
トラブルによって受付が振り回されれば残業代や休暇取得にも影響しますし、納期遅延が続けば離職リスクにもつながります。
歯科医療はチームワークで成り立っています。院内スタッフだけでなく、技工所という外部パートナーとの関係もまた「チームの一員」として位置付けることが大切です。
そのためには、感覚的な信頼関係だけに頼らず、契約やルールを明確にして、トラブルを未然に防ぐ仕組みを整えることが不可欠です。
技工所との契約トラブルは、経営上のリスクであると同時に、スタッフの労務管理上の課題でもあります。社労士として、労務という視点からクリニックの現場で見てきた事例を踏まえ、実効性のある解決策を提案していきたいと思います。
医療(医科歯科)クリニック専門
特定社会保険労務士 鈴木教大
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