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デンタルクリニックは地域医療に不可欠な存在ですが、来院する患者数は常に一定ではありません。季節要因、経済状況、競合医院の動向、さらには院長自身の体調やスタッフの退職など、さまざまな要因で患者数は大きく変動します。患者数が減れば売上は直結して落ち込みますし、逆に急増すれば人員不足が顕在化します。こうした変動はスタッフの給与水準や雇用継続に直接的な影響を及ぼし、労務リスクを引き起こします。今回は、私が社労士として実際に関わった事例を交えながら、この課題を整理し、解決策を提案していきます。
ある郊外の歯科クリニックでは、近隣に新規開業医院ができたことを契機に患者数が大きく減少しました。売上の落ち込みを補填するため、院長はスタッフに「しばらくの間、給与を一律で5%減額してほしい」と要請しました。しかし、事前の労使合意がなく、給与の一方的減額は労働契約法違反にあたる可能性が高いため、スタッフから強い反発が起こりました。結果として、数名のスタッフが退職し、人手不足がさらに悪化するという悪循環に陥ってしまいました。
一方、別の都市型クリニックでは、テレビ出演をきっかけに患者数が急増しました。スタッフは連日フル稼働で、残業が常態化。しかし、院長は「一時的な繁忙期だから」として残業代を十分に支払わず、スタッフとの間で大きなトラブルに発展しました。結局、スタッフのモチベーションは下がり、離職者も相次いでしまいました。
私が関与してきた複数のクリニックで共通して言えるのは、患者数の変動に応じた柔軟な人員体制や就業規則の整備が不足しているケースが多いという点です。売上が安定していない時期に、固定的な給与水準を維持することは経営に大きな負担を与えますが、かといって一方的な給与カットや労働条件の変更は法的トラブルを招きます。逆に、急な繁忙時に残業代や休日出勤手当を軽視すれば、スタッフの信頼を失う結果となります。まさに「患者数の変動をどう人事労務に反映させるか」がクリニック経営における最大の課題の一つです。
給与減額リスク
一方的な減給は労働契約法第8条違反となり、無効とされる可能性が高い。就業規則の変更や労使合意が不可欠。
人件費固定化の問題
売上が変動しても、給与は原則固定。経営の柔軟性が損なわれやすい。
人員不足リスク
急な患者増に対応できず、既存スタッフに過重労働が集中する。
残業代トラブル
「一時的だから」と支払わない、もしくは曖昧な取り扱いが大きな紛争の火種になる。
変形労働時間制・シフトの柔軟運用
患者数の季節変動がある場合、1か月単位や1年単位の変形労働時間制を導入し、繁忙期・閑散期に応じた労働時間配分を行う。
歩合給・出来高給制度の導入
完全固定給ではなく、一部を出来高に連動させることで、経営と給与のバランスを取る。ただし設計を誤るとトラブルになるため、透明性のあるルール作りが必須。
就業規則での明文化
「業績悪化時の対応」や「繁忙期の残業・休日出勤手当」について、就業規則や労使協定に明記しておくことで、後のトラブルを予防。
労務管理の外部サポート活用
患者数変動リスクは避けられない以上、第三者である社労士が客観的に制度設計し、スタッフへの説明を行うことで、労使の信頼関係を維持しやすくなる。
患者数変動はデンタルクリニック経営において不可避の現象です。その変動を理由に場当たり的に給与や雇用を調整しようとすると、かえって大きな労務トラブルを招きます。大切なのは、平時から制度設計をしておくこと。スタッフの信頼を守りながら経営を安定させるためには、柔軟かつ法的に適切な仕組み作りが欠かせません。
私自身、数多くのクリニックでこの課題に直面してきましたが、就業規則や評価制度、労使協定の整備を行うことで、経営側もスタッフ側も納得できる形に落ち着いたケースを多く見てきました。
患者数の変動という不確実性に対し、「人事労務の安全装置」を持つことこそ、持続可能なクリニック経営への第一歩です。
医療(医科歯科)クリニック専門
特定社会保険労務士 鈴木教大
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