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毎月やってくるレセプト業務(診療報酬明細書の点検・請求処理)は、医科・歯科クリニックにとって避けられない重要な事務作業です。しかし、締め切りに追われる中で「レセプト残業」が常態化し、スタッフが深夜まで作業するような状況は決して珍しくありません。
私が労務相談を受ける現場でも「毎月月初は必ず22時、23時まで残業になる」といった声を耳にします。こうした状況が長期化すると、スタッフの疲労・不満の増大だけでなく、労務管理上の法的リスクにも直結します。特に「変形労働時間制」と「36協定」との関係を正しく理解していないと、知らず知らずのうちに違法状態に陥っているケースが多いのです。
ある歯科クリニックでは、月初3日間は事務スタッフ総出でレセプト点検を行う慣習がありました。通常は18時終業ですが、この期間は連日22時まで残業。院長は「患者数が多いから仕方ない」「毎月3日だけだから我慢してほしい」と説明していました。
しかし実際には、スタッフの時間外労働が月45時間を超えることもあり、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)で定めた上限をオーバーしてしまっていたのです。さらに、そのクリニックでは「1か月単位の変形労働時間制」を導入しているつもりでしたが、就業規則や労使協定に明確な定めがなく、法的には無効。結果として「単純な残業の垂れ流し状態」になっていました。
変形労働時間制は、繁忙日と閑散日で労働時間を柔軟に調整できる制度です。たとえば「月初の3日間は1日10時間労働、それ以外の日は7時間勤務」といった設計が可能です。
しかし導入には必ず労使協定や就業規則での明示が必要であり、ただ「忙しい時期に長く働かせて、暇なときに早く帰している」だけでは法的効力を持ちません。私が見たあるクリニックでは、院長が「うちは変形労働制だから大丈夫」と説明していたものの、労働基準監督署に提出した協定が存在せず、監査で是正勧告を受けたケースがありました。
36協定は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働を命じる際に必ず必要となる協定です。特にレセプト業務は「月初に集中する時間外労働」が多いため、36協定の上限規制(原則:月45時間、年360時間)を超えやすいのが特徴です。
厚労省が定める特別条項付き36協定を結べば、一時的に上限を超えることは可能ですが、それでも「年720時間以内」「複数月平均80時間以内」「月100時間未満」など厳しい制約があります。レセプト残業が常態化しているクリニックは、この制限を知らずに違反状態に陥るリスクが極めて高いのです。
労務管理上のリスクに加え、スタッフのモチベーション低下も深刻です。あるクリニックでは、事務スタッフが「月初は家庭の予定が立てられない」「子育てと両立できない」と不満を募らせ、最終的に退職者が続出しました。残業代をきちんと支払っていたとしても、労働環境が改善されなければ人材は定着しません。
変形労働時間制の適正導入
・繁忙日(レセプト業務日)に労働時間を長く設定し、閑散日に短縮する仕組みをルール化。
・就業規則や労使協定に明記し、労基署へ届け出る。
36協定の正しい理解と運用
・毎月の残業時間を把握し、36協定の範囲を超えないように管理する。
・必要に応じて特別条項付き36協定を締結し、突発的な業務増に備える。
業務効率化の工夫
・レセプトチェックソフトの導入や、外部委託の活用。
・スタッフ教育を通じて入力ミスを減らし、修正作業を軽減する。
勤務シフトの見直し
・月初の残業を前提とせず、事前に時間をずらした勤務シフトを組む。
・パートや臨時スタッフをスポットで投入する。
レセプト残業は「毎月数日だけの特例」として軽視されがちですが、実際には変形労働時間制や36協定との関係で多くのクリニックが違法状態に陥っています。しかもその影響は法的リスクだけでなく、スタッフの離職・人材不足にも直結します。
「忙しいから仕方ない」で済ませず、制度面・運用面を整えることが、長期的にクリニックを守る第一歩です。私自身、現場で数多くの是正指導や退職トラブルを見てきましたが、早めの仕組みづくりによって改善できるケースがほとんどでした。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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