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ある歯科クリニックでは、勤続年数に応じて給与を自動的に上げる仕組みしかなく、日々の貢献やスキル向上を考慮する仕組みがありませんでした。例えば、患者対応が抜群に丁寧なスタッフや、新しい技術を積極的に学んで診療を支える歯科衛生士も、他のスタッフと同じ昇給幅しか認められません。その結果、「頑張っても頑張らなくても同じ」という不公平感が広がり、優秀なスタッフが離職してしまいました。
このケースでは、院長自身も「スタッフは皆同じように働いている」という認識を持っており、評価制度を必要と感じていませんでした。しかし、現場での役割や患者からの信頼度には明らかな差があるため、スタッフにとっては納得できない状況だったのです。
別のクリニックでは「院長が気に入った人が優遇される」という声がスタッフから上がっていました。例えば、同じ成果を出していても、院長に積極的に意見を伝えるタイプのスタッフは評価されやすく、逆に黙々と貢献しているタイプは見過ごされることがありました。
このように人事評価の基準が曖昧だと、職場内に「えこひいき」の印象が生まれ、チームワークの低下や不信感の連鎖につながります。中には「どうせ評価は院長の気分次第だから」と、やる気を失ってしまうスタッフも少なくありませんでした。
さらに、評価制度がないとキャリア形成の見通しが立たず、若手スタッフが定着しにくくなります。あるクリニックでは、新卒の歯科衛生士が入職後2年で退職しました。理由を尋ねると「先輩たちが何年勤めても同じような待遇で、目標を持てない。ここで働き続けても自分の将来像が描けない」と話していました。
医療現場においては日々の学びと成長が重要ですが、評価制度がなければ成長を可視化できず、モチベーション維持が困難になります。
人事評価制度の欠如は、単なるスタッフの不満にとどまりません。以下のようなリスクにつながります。
離職率の上昇:評価されない職場では、優秀な人材ほど流出する。
採用力の低下:口コミや評判が広まり、「あの医院は頑張っても報われない」と思われる。
職場の士気低下:不満が積み重なり、残ったスタッフのモチベーションも下がる。
経営の停滞:スタッフの活躍を最大化できず、患者サービスや収益にも悪影響が及ぶ。
大規模な企業のような複雑な人事制度を導入する必要はありません。中小規模のクリニックに適した、シンプルかつ透明性のある仕組みを整えることが大切です。具体的には以下のポイントが有効です。
明確な評価基準を設定する
・診療補助技術、患者対応、チームワーク、自己研鑽などを評価項目に盛り込む。
・基準は院長の主観ではなく、客観的に確認できる内容にする。
定期的なフィードバック面談
・年1回の昇給時だけでなく、半期ごとに面談を実施。
・良かった点と改善点を具体的に伝え、次の目標を設定する。
キャリアパスの提示
・「○年目で主任候補」「研修を受ければリーダー職」など将来像を示す。
・特に若手スタッフにとっては、将来の道筋が見えることで安心感につながる。
院長自身の意識改革
・「頑張るのは当たり前」という考えを改め、努力や成果を言葉で認める姿勢が必要。
・評価は給与だけでなく、日常の感謝や表彰といった形でも示せる。
人事評価制度は、スタッフにとって「自分の努力が報われているか」を確認できる重要な仕組みです。欠如すれば、不満が積み重なり、離職や職場の不信感につながります。逆に、評価制度が整えばスタッフのモチベーションが高まり、結果として患者サービスの質も向上します。
私はこれまで複数のクリニックで制度設計をお手伝いしてきましたが、導入後には「スタッフが前向きになった」「採用面接で応募者に安心感を与えられる」といった良い効果を実感していただいています。評価制度は「経営者の気持ちを伝える仕組み」でもあります。ぜひ早めに取り組んでいただきたい分野です。
医療(医科歯科)クリニック専門 特定社会保険労務士 鈴木教大
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