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近年、歯科クリニックの労務相談に携わる中で、「スタッフ教育や研修が十分に行われていないこと」に起因するトラブルやリスクに直面することが少なくありません。診療技術や設備投資に注力する一方で、スタッフの教育体制は「その場で教える」程度にとどまり、体系的な研修やマニュアル整備が後回しになっているケースが多いのです。その結果、医療安全のリスクが高まり、ひいては患者満足度やスタッフ定着率の低下につながることもあります。
以下では、実際に私が顧問として関わった歯科クリニックの事例を交えながら、教育・研修不足による医療安全リスクと、その改善の方向性について考えてみたいと思います。
あるクリニックでは、新卒の歯科助手が入職後すぐに診療現場へ投入されました。十分な研修を受けないまま、器具の受け渡しやバキューム操作を任されていたところ、ドクターが使用していた鋭利な器具を誤って患者の口腔内に落としてしまう事故が発生しました。幸い大事には至りませんでしたが、患者からは強い不信感を抱かれ、以後の通院を中止される結果となりました。
原因を振り返ると、スタッフ本人の不注意というよりも、基本操作を繰り返し練習する「教育期間」を設けなかった組織的な問題でした。新人に対して「見て覚える」スタイルで任せてしまうことが、リスクを増大させる典型例と言えるでしょう。
別のクリニックでは、滅菌手順の研修が十分に行われていなかったため、使用済み器具を誤って未滅菌のトレーに戻してしまうというヒヤリハットが頻発していました。マニュアル自体は存在していたものの、形だけで具体的な指導や定期的な確認は行われていませんでした。
このケースでは、スタッフ間で感染予防への意識に差があり、ベテラン衛生士と新人助手との間で口論に発展する場面も見られました。感染管理は患者だけでなくスタッフ自身の安全にも直結するため、体系的な研修の欠如は重大なリスクを孕んでいます。
教育不足は技術的な部分だけでなく、スタッフ間の報連相にも影響を及ぼします。あるクリニックでは、新人衛生士がドクターからの指示を正しく理解できず、誤った薬剤を準備してしまいました。幸い直前に気づいて投薬には至りませんでしたが、スタッフ同士で「指示の受け方」「確認の仕方」を共有していなかったことが背景にありました。
コミュニケーションの研修やロールプレイを行っていれば防げた可能性が高く、教育不足が医療安全に直結する典型的なケースでした。
教育が不十分なままスタッフを現場に投入すると、本人は不安とストレスを抱え、業務への自信を失いやすくなります。結果として早期離職につながり、再び新しいスタッフを採用し、また教育不足のまま現場に出す――という悪循環に陥るクリニックも少なくありません。
この循環を断ち切るためには、「教育体制を整備すること自体が長期的な人材定着策であり、医療安全の担保になる」という発想の転換が必要です。
では、具体的にどのような取り組みが有効なのでしょうか。顧問先で実施して成果があった方法をいくつか紹介します。
新人研修プログラムの整備
最低でも入職後1~2週間はシミュレーションやOJTに充て、いきなり患者対応させない。
マニュアルの動画化・図解化
文章だけでは伝わりにくい操作手順を、写真や動画で共有し、誰でも同じ基準で学べるようにする。
定期的な院内勉強会の開催
感染症対策、器具操作、患者対応などテーマを決め、月1回短時間でも実施する。
ロールプレイによる接遇研修
患者への説明や院内コミュニケーションを想定した練習を行い、言葉遣いや確認手順を統一する。
教育担当者の明確化
院長任せにせず、主任衛生士やベテラン助手に「教育係」を任命し、責任を持って指導させる。
私自身、労務管理の観点から「教育研修は業務効率や安全性に直結する労務問題」として捉えています。特に労災が発生した場合、「安全配慮義務違反」と判断されるリスクもあり、教育体制の有無は法的な責任を問われる際の大きな要素となります。
また、教育体制を整備することは、スタッフにとって「安心して働ける環境」を提供することにもつながります。結果的に離職率を下げ、採用コストの削減や院内の安定した診療体制確保に直結するのです。
歯科クリニックにおけるスタッフ教育・研修不足は、単なる「スタッフの問題」ではなく、患者の安全・院内の信頼・労務リスクを大きく左右する経営課題です。
教育体制を整えることは、医療安全の担保であり、スタッフの定着策であり、ひいてはクリニックのブランド価値を高める投資でもあります。
「忙しいから後回し」ではなく、「忙しいからこそ教育に時間を割く」ことが、安定した経営への第一歩だと感じています。
医療(医科歯科)クリニック専門
特定社会保険労務士 鈴木教大
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