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美容医療の現場では、売上目標やキャンペーン施策が強調されるあまり、スタッフが過度なクロージングに走り、結果として患者満足度低下やクレーム増加につながる事例が散見される。医療機関としての本来の役割は「医療的適応に基づく提案」であり、収益偏重の文化が行き過ぎると、スタッフの心理的負荷、離職リスク、さらには法的リスクにも発展する。社労士として多数の美容医療機関を支援する中で、販売文化が組織に与える影響を目の当たりにしてきた。今回は、過度販売の是正に向けた組織文化改革をテーマに、実務に直結する観点から解説する。
【過度販売・クロージング圧力が生まれる構造的背景】
美容外科・美容皮膚科は、自由診療を主体としたビジネスモデルであり、売上は経営に直結する。そのため、院長や事務長が「今月は〇〇万円の売上を必ず達成してほしい」と強く求めるケースは珍しくない。しかし、この指示が抽象的なまま現場に落ちると、「とにかく売ることが最優先」という誤ったメッセージとなり、スタッフが追い込まれる。
実際、私が労務相談として関わったクリニックでも、カウンセラーが日々の数字に追われ、適応外の施術まで提案するよう圧力を感じていた事例があった。結果として患者からの苦情が増加し、スタッフのメンタル不調による休職も発生した。これは個人の問題ではなく、目標設定や内部コミュニケーションが不十分な組織構造上の課題といえる。
【「売上目標の適正化」と「医療的適応」のバランス設計】
過度販売を抑制するうえで重要なのは、売上目標を完全に否定することではなく、医療適応との整合性を確保することだ。特に美容医療の場合、「売上=患者の満足」とは限らない。提供するのは医療行為であり、過剰な誘導はリスクを増幅させる。
経営側がまず見直すべき点は以下である。
・数値目標を「施術件数」「契約率」だけに偏らせない
・「適応外の施術は提案しない」基準を明文化する
・コンバージョン率よりも、満足度やリピート率を重視した評価軸にする
社労士として評価制度の構築を支援する際、私は必ず「医療の価値を損なわない評価軸」を組み込むよう助言している。これにより、スタッフは売上だけに縛られず、自信をもって患者に向き合えるようになる。
【クロージング圧力を緩和するための接遇プロトコル整備】
過度なクロージングは、スタッフ個人のスキル不足ではなく、組織としてのプロトコル不在に起因することが多い。特に初診カウンセリングの流れが属人的である場合、スタッフの判断に過度な負担が集中し、結果として押し売りにつながる。
以下のような標準化が有効である。
・初診カウンセリングの質問項目を統一する
・医学的適応の説明と、費用説明の段階を切り分ける
・「その場での契約を迫らない」方針を明文化する
・迷った場合は医師にエスカレーションするフローを設定する
プロトコル整備は、過度な販売防止だけでなく、新人教育の効率化、クレーム減少、スタッフの心理的安全性向上にも寄与する。
【組織文化として「誠実な提案」を浸透させる方法】
制度やルールを整えても、最終的に現場を動かすのは「組織文化」である。美容医療の組織において重視すべき文化は、以下の3点に集約される。
(1)医療適応を中心に据える文化
(2)患者との長期的関係構築を重視する文化
(3)スタッフが不安やプレッシャーを相談できる文化
社労士として複数の美容クリニック改善に関わる中で、「院長が初診カウンセリングの価値観を共有しているか」が文化形成の決定要因であると感じている。院長が「売上よりも適応が優先」と明言することで、全体の意思決定基準が安定し、スタッフの行動も健全化する。
さらに、定例ミーティングで「適応外の相談事例」「クロージングに迷ったケース」を共有する習慣をつくると、現場の判断力が均質になり、組織としての品質が向上する。
【評価制度・インセンティブ制度の見直し】
過度販売の背景には、インセンティブ制度が売上偏重で設計されているケースも多い。例えば「契約金額の〇%を報酬に加算する」といった仕組みは、一見モチベーションを高めるようで、実際には適応外の提案を誘発しやすい。
改善策としては、
・患者満足度
・術後フォローの質
・説明の正確性
・クレーム発生率
といった非金銭的項目を評価に組み込むことが重要である。私が関与したクリニックでは、この改訂によりスタッフの離職が減少し、結果として施術単価も安定した。
【過度販売を是正した組織のメリット】
過度販売を抑えることは売上を下げる行為ではない。むしろ以下のような効果が見込める。
・クレーム削減
・スタッフの定着率向上
・患者の紹介増加
・医療サービスとしての信頼性向上
美容医療は感情的価値が大きい分、誠実な提案が患者の信頼につながり、長期的な経営安定に結びつく。
【まとめ】
過度販売・クロージング圧力の問題は、単なるスタッフ教育では解決しない。売上目標の設計、プロトコル整備、組織文化、評価制度など、複数の労務・組織要素が絡み合うため、構造として捉えることが必要である。社労士として、制度構築と文化改革の両面から支援を行うことで、医療機関の健全な成長を後押しできると考えている。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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