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美容外科・美容皮膚科におけるSNSの活用は、集患戦略として極めて有効である一方、スタッフの何気ない投稿が炎上の引き金となるケースも少なくありません。特に、美容医療は機微性の高い個人情報を扱うため、一般医科よりも慎重なルール設計が求められます。現場で人事・労務管理を担当していると、事後対応の相談がもっとも遅く、被害が拡大しやすい傾向があります。予防こそ最大のリスク管理であり、組織として体系的なSNSガイドラインを整備する重要性を痛感してきました。
以下、美容外科・美容皮膚科の実情に即したSNS投稿ルールと炎上リスクの可視化・予防アプローチをまとめます。
【SNSリスクが美容クリニックで顕在化しやすい理由】
美容医療は、施術内容・価格・ビフォーアフター症例など、SNS映えしやすい情報が多いため、スタッフ自身が「つい投稿したくなる」環境にあります。実際、私が支援したクリニックでも、オフの日にスタッフが院内風景を背景に自撮りした写真を投稿し、偶然患者の履歴が写り込んでしまうインシデントがありました。本来、故意ではない「悪気のない投稿」が重大な個人情報漏えいに繋がるのが美容医療の特徴です。
また、患者層もSNS利用が積極的であり、口コミ拡散力が高い点も特徴です。短時間で情報が拡散しやすく、誤解が誤解を呼ぶ状況も生じやすいため、通常の医療機関よりも強固で明確なルールが必要になります。
【投稿ルールの基本方針】
まず基礎として以下の3点は全クリニックで必須です。
患者情報・施術情報の取り扱い基準
投稿可能範囲と事前承認フロー
個人アカウントにおける勤務先表記のルール
特に、患者情報については「写り込む可能性があるもの全て」を禁止事項に含める必要があります。電子カルテ画面、モニター、カルテ保管棚、施術同意書などは、背景に映るだけで情報漏えいと判断されます。
さらに、投稿前に必ず上長または広報担当が確認する「承認制」を設けることで、炎上の80%は防げます。美容医療では、スタッフが美意識の高い環境にいるため、自身のメイクや施術経験を投稿したくなるケースが多く、そこに業務情報が無意識に混ざりやすいためです。
【スタッフ個人アカウントの運用方針】
労務相談で最も多いのが「個人アカウントでの勤務先表記に関するトラブル」です。美容外科ではクリニック名をプロフィールに記載することでフォロワーが増えるメリットがある一方、炎上時には組織が巻き込まれます。そのため、次のような基準を推奨しています。
・勤務先表記は禁止(どうしても表記したい場合は院内承認制)
・施術感想やレビュー投稿は、クリニック名の明記を禁止
・内部情報(人間関係、勤務状況、忙しさなど)に触れる投稿は禁止
・SNS上のDMで患者対応をしないことを明示
これらは就業規則の服務規律に落とし込み、処分基準を定義することで運用しやすくなります。私は実務の中で、投稿ルールだけではスタッフ間の解釈に差が生まれることを何度も経験しています。そのため、就業規則に「SNS行動基準」を追記し、明文化する運用が最も安定します。
【症例写真の取り扱いルール】
美容医療のSNS活用では症例写真の管理が不可欠です。しかし、写真は「撮影」「加工」「保管」「投稿」の各工程に法的リスクが潜みます。
特に注意すべき点は次の通りです。
・同意書の取得範囲を明確化(媒体別、期間の定義)
・加工の基準(過度な美肌加工の禁止、医療広告ガイドライン遵守)
・投稿後の削除依頼への対応ルール
・画像データの院内保存ルール(個人端末使用禁止)
美容医療広告ガイドラインは「ビフォーアフター写真」の掲載に最も制約があり、改善幅を強調しすぎる表現が指導対象となります。ここを誤るとSNS投稿が行政指導の引き金になるため、スタッフにも基準を理解させる研修が必要です。
【炎上リスクの洗い出しと予防策】
美容外科・美容皮膚科ならではの炎上リスクは主に以下の6点に分類できます。
個人情報漏えい(背景写り込み含む)
医療広告ガイドライン違反
社内内部事情の暴露
スタッフの不適切発言
施術トラブル時の不適切なSNS対応
患者側アカウントとの軽率なやり取り
私は支援先で実際に、「背景に施術中の患者が映った動画」が投稿され、即座に炎上した事案を経験しました。悪意はなく、単に動画の構図を気にしすぎて周囲に注意が向かなかっただけでした。このように、スキルより意識の問題で起こることが多く、教育による底上げが最も再現性のある対策になります。
具体的には、
・全スタッフへの年1回のSNSリスク研修
・院内広報担当の設置
・投稿前のダブルチェック体制
・炎上発生時の初動マニュアル作成
・公式アカウントと個人アカウントの線引き
これらを組織として整えることで、投稿ルールが「守れる仕組み」になります。
【炎上時の初動対応】
炎上の鎮火速度は、初動で決まります。美容クリニックは口コミサイトやSNSに掲載されるスピードが早いため、初動体制を決めておくことは必須です。
・削除判断の基準を明確化
・投稿者本人ではなく組織として対応
・外部への説明文テンプレートの事前準備
・事実確認のフロー化
・必要に応じて弁護士・社労士・広報との連携
現場では「本人に気まずくて注意できない」という院長・事務長の声を多く聞きますが、初動を躊躇すると炎上は指数関数的に拡大します。組織として静かに・迅速に対応する枠組みづくりが不可欠です。
【SNSルールの就業規則化】
SNSは任意運用ではなく、労務管理の一部として制度化することで安定します。私は就業規則や服務規律に次のような条文を追加しています。
・SNS投稿に関する禁止事項
・勤務先を名乗る際の許可制
・個人端末で業務情報を取り扱うことの禁止
・症例写真・患者情報の扱い方
・違反時の懲戒基準
これは、後のトラブル防止に極めて有効です。明文化されていなければ処分も指導も曖昧になります。
【まとめ:SNSは「制度」と「教育」で運用が安定する】
美容外科・美容皮膚科のSNS活用は必要不可欠ですが、ルールが曖昧なまま運用すると必ず炎上リスクが顕在化します。現場を支援する中で実感しているのは、「スタッフは悪意があって問題投稿をするのではなく、解釈のズレが原因である」という点です。だからこそ、制度整備と教育体制が整ったクリニックはトラブルが極端に少なくなります。
組織として一貫した基準を持ち、スタッフの意識と行動を同じ方向に揃えることで、安全で安定したSNS活用が可能になります。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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