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内科・外科・小児科・整形外科・美容医療など、職種構成が複雑な医療機関では、人員の専門性が高く、スタッフ一人の長期不在が診療体制に大きな影響を及ぼす。
しかし、実務では「休職制度自体が存在しないクリニック」が一定数ある。特に家族経営クリニックや小規模院では、「欠勤が続いたら自然退職」や「様子を見ながらひとまず休ませる」という曖昧な運用が少なくない。
社労士として現場を支援していると、この“制度の空白”が後に大きな紛争リスクとなり、最終的には院長側の負担が極めて大きくなるケースを何度も見てきた。ここでは、制度を設けていない場合にどのような対応が求められるのか、実務で役立つ観点から整理する。
休職規定がない場合、主に以下の3点が争点になる。
退職扱いの時期・判断基準が不明確になる
「いつまで待つべきか」「どこから就労不能とみなすか」が曖昧で、労働者側と認識がズレる。
実際、多くの労使トラブルでは“合意がないまま退職扱いにされた”という主張が表面化する。
安全配慮義務違反を主張されやすい
院長は労働者の健康状態に配慮する義務を負うため、医師の診断書提出があったにもかかわらず対応が曖昧だと、後に責任を問われるリスクがある。
復職時の判断が属人的になり、平等性を欠く
「Aさんの時は復職を認めたのに、Bさんは認めない」などの不均衡が生まれ、コンプライアンス上の問題を招く。
とくに医療機関では、看護師・医療事務・放射線技師など資格者依存が強い分、復職判断の曖昧さはスタッフ間の不満にも直結する。
休職制度がなくても、最低限押さえるべきポイントがある。
休職制度がない場合でも、診断書提出があれば「就労が可能か」を医学的に判断してもらう必要がある。
特に整形外科や美容外科では術前・術後の業務負荷が高く、無理な出勤は院内事故にも直結するため、医学的根拠に基づいた判断が不可欠だ。
私が支援したクリニックでも、診断書を軽視した結果、業務中の症状悪化が発生し、労災申請にまで至ったケースがある。診断書は単なる書類ではなく、事業者のリスクコントロールに直結する。
制度がない場合は、都度合意を文書化することでトラブルを回避できる。
例:
・欠勤をいつまで認めるか
・給与・社会保険料の扱い
・本人の体調回復の見込み
・今後の連絡方法
・復職判断の基準
これらを双方で署名するだけでも、後の紛争リスクは大幅に低減する。
実務では、小児科や整形外科など家庭事情で欠勤が多い職種で特に効果がある。
医科特有の業務負荷の高さを考えると、いきなりフルタイム復帰させるのは現実的でない。
そのため、以下を明文化した上で復職支援を行うと安全性が高い。
・短時間勤務での試験的復職
・業務内容の一部制限(美容医療の重作業、整形外科の物理療法補助など)
・一定期間での再評価
こうした対応は労務管理上も合理的であり、本人の体調悪化リスクも減少する。
小規模クリニックで特にトラブルになりやすいのが「社会保険料が発生するのに給与がゼロ」のケースだ。
欠勤が続いて給与支給がない場合でも、標準報酬月額に基づき保険料は発生するため、本人に立替分を後日請求する必要がある。
この説明をしていないと、「なぜこんなに引かれるのか」とトラブルになりやすい。
最終的には、完全な休職制度を導入することが望ましいが、すぐに整備できない場合は最低限の条項だけでも追加しておくとよい。
例:
・私傷病により就労不能となった場合は一定期間の休務を認める
・期間終了時点で復職できない場合の雇用終了条件
・復職時の医学的判断基準
これだけでも紛争の約7割は回避できる印象がある。
私が支援した美容クリニックでは、この簡易条項を導入しただけで、長期欠勤対応が格段に整理され、院長の精神的負担も大きく減少した。
休職制度が欠落している医療機関の多くは、「これまで困らなかったから」「人数が少ないから」という理由で制度整備が後回しになっている。
しかし、働き手の価値が高く、専門性が求められる医療業界では、一人の離脱が院全体の業務に直結するため、長期欠勤対応こそ“最重要の仕組み”と言ってよい。
不十分な運用のまま問題が発生すると、退職・損害賠償請求・労災申請など、想定以上の負担を招く可能性がある。
特に美容医療や整形外科では人材確保が難しいため、制度不備は経営リスクに直結する。
休職制度がない場合でも、
・医学的判断の徹底
・文書による個別合意
・段階的復職制度の整備
・社会保険料の説明
・簡易条項の追加
といった最低限の対応をとることで、クリニックの労務リスクは大きく軽減できる。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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