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医師の診断書が出た場合の
「就労制限」対応のポイント

医師からスタッフの「就労制限」に関する診断書が提出された場合、医科クリニックでは迅速かつ適切な判断が求められます。特に内科・外科・小児科・整形外科・美容医療では、診療内容の特性から業務負荷が大きく、現場の人員構成によっては制限内容が診療体制に直結するケースも少なくありません。本稿では、医科に特化した観点から就労制限への実務対応を整理し、社労士として現場支援の経験から得たポイントも交えて解説します。

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■1 診断書の「就労可否」と「制限内容」をまず区別する
診断書には大きく三つのタイプがあります。

・就労不可
・就労可能(制限あり)
・就労可能(制限なし)

とりわけ医科クリニックで問題となるのは「就労可能(制限あり)」のケースです。制限の内容は多岐にわたり、「重量物運搬禁止」「長時間立位禁止」「夜勤禁止」「感染リスクのある業務の回避」「刺激物薬剤の取り扱い禁止」などが典型例です。整形外科や美容外科では重量物や器具運搬、長時間の固定姿勢が問題になりやすく、小児科では感染症の多い季節に制限が生じることもあります。

社労士として診断書を確認する際、「制限の理由」と「期間」「業務内容への影響」の三点を必ず押さえるよう助言しています。単純に制限の文言だけで判断すると、業務遂行上の支障を過剰に評価したり、逆に軽く見てしまうリスクがあるためです。

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■2 就業規則の「就労制限・配置転換」の規定の有無を確認する
医科の現場では、看護師・医療事務・放射線技師・リハビリスタッフなど、それぞれ業務内容と負荷が異なります。就労制限が出た場合に別業務へ転換できるかは、就業規則の規定が基盤となります。

理想的には次のような規定が整備されていることが望ましいと考えています。

・健康状態に応じて業務軽減や配置転換を行うことができる
・院長または管理者が必要な措置を講じる旨を明記
・医師の意見(産業医意見含む)に基づく調整が可能であること

私が支援しているクリニックでも、就労制限を想定した規定がなかったために、本人と管理者との間で「どこまで業務が可能か」を巡ってトラブルになった事例がありました。規定整備は予防策として非常に重要です。

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■3 制限内容と現場の業務を突き合わせる「業務棚卸し」を行う
診断書の制限を確認した後は、具体的に「どの業務に影響が出るか」を可視化する必要があります。これは医科領域の労務管理において最も実務的なプロセスです。

たとえば整形外科では以下のような点を確認します。

・患者移乗の補助はどの程度発生しているか
・牽引や物理療法機器の準備は可能か
・長時間の立位業務が避けられる勤務配置があるか

美容クリニックでは次の点がポイントになります。

・レーザー照射時の姿勢は制限に抵触しないか
・消毒薬や薬剤調整の業務が可能か
・カウンセリングに特化した勤務が可能か

業務棚卸しでは、管理者だけで判断するのではなく、本人の意見を丁寧に聴取することが重要です。社労士として立ち会う際も、本人の訴えと診断書内容に齟齬がないかを慎重に確認しています。

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■4 「代替業務」または「限定勤務」を柔軟に検討する
就労制限は必ずしも長期とは限りません。むしろ医科クリニックでは季節性疾患や一時的な体調悪化が原因で、数週間から数か月程度の限定措置となることが多いのが実務上の感覚です。

規模の小さなクリニックでは対応が難しいこともありますが、以下のような工夫が可能です。

・受付、レセプト補助、電話対応への一時配置
・座位中心の検査補助業務
・短時間勤務または午前のみの勤務
・処置室業務の一部縮小

看護師の場合、医行為の制限があると人員調整が必要になりますが、それでも「完全休職」とする前にできる範囲の業務を切り出すことで、本人の収入維持と現場の機能維持を両立しているクリニックを多く見てきました。

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■5 安全配慮義務を前提とした対応を徹底する
就労制限への対応は、最終的には事業主の安全配慮義務が基礎となります。医科クリニックの現場は立位・移動・薬剤・感染リスクなど多様な危険因子があるため、制限内容を軽視すると事故や再発につながります。

社労士として助言しているポイントは以下のとおりです。

・診断書の内容より重い業務を課さない
・本人の「大丈夫」という自己判断をうのみにしない
・制限内容を管理者・院長・関係スタッフで共有する
・期間満了時は再診断を依頼する

医科現場はチーム医療で運営されているため、一人の負荷が事故を誘発する可能性があります。診断書の尊重は患者安全にもつながる重要な観点です。

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■6 労務管理上の記録化を徹底する
就労制限への対応は、後の労務トラブル予防にも直結します。対応プロセスの記録を残すことで、合理的配慮を講じたことを説明でき、本人との誤解防止にもなります。

記録化のポイントは次のとおりです。

・診断書の写しを保管
・本人との面談内容(負荷感の聞き取り、要望など)
・配置転換や勤務調整の決定理由
・現場スタッフへの周知方法
・終了時の評価と本人の状態

特に医療機関は人事評価や勤怠管理が属人化しやすい傾向があります。私自身、記録の欠如がトラブルの引き金となった事例に数多く立ち会ってきました。

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■7 産業医面談の活用が有効な場合
一定規模以上のクリニックや医療法人であれば、産業医の意見を取り入れる体制が整っています。就労制限は主治医の医学的意見に基づきますが、職場適応に関する判断は産業医の専門領域です。

特に次の場合は産業医面談を推奨しています。

・制限内容と業務の整合性判断が難しい
・長期化が見込まれる
・本人の訴えが診断書と大きく異なる
・安全面の懸念がある

医科クリニックでは感染症リスクや高度な医療機器操作が絡むため、産業医の助言は有益です。

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【まとめ】
医師の診断書による就労制限への対応は、診断書の内容整理、就業規則の確認、業務棚卸し、代替業務の検討、安全配慮義務の履行、記録化、産業医との連携という一連のプロセスを丁寧に行うことが重要です。医科クリニックは業務負荷が高く、業務の細分化も進んでいるため、制限の影響が現場全体に及びやすいのが実務上の特徴です。社労士としては、診療体制の維持とスタッフの健康確保の両立を支援する姿勢が求められます。

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執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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