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医療機関では、スタッフの急な休職が発生すると、現場の人員調整だけでなく、社会保険料の取り扱いや給与処理の方法についても複雑な判断が求められます。特に内科・外科・小児科・整形外科・美容クリニックなど、多職種が運営に関わる現場では、役割分担が細かく、休職者への給与処理と保険料対応を誤ると、後日のトラブルに直結するケースも少なくありません。ここでは、社労士として数多くの医療法人・クリニックを支援してきた経験を踏まえ、休職時の実務ポイントを整理して解説します。
【休職中の社会保険料は「給与の有無」で大きく変わる】
休職者の社会保険料負担について、まず重要なのは「給与の支給があるかどうか」です。病気休暇、院長判断による特別休暇、就業規則に基づく休職制度など、名称に違いはあっても、法的には給与支払いの有無によって取り扱いが変わります。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、原則として「翌月徴収」です。そのため、給与が発生しない完全無給の休職に入ると、翌月以降の保険料が給与から控除できず、事業主が立て替える形となります。医療機関では、この立て替え回収が滞るケースが非常に多く、後々のトラブル原因として典型例の一つです。私が担当したクリニックでも、復職が長期化し、結果的に立て替え金額が十数万円に膨らんでしまい、回収に大変苦労したケースがありました。
したがって、休職開始時には「保険料をどのように徴収するか」を必ず書面で確認する体制が望まれます。
【休職中の保険料徴収方法の標準パターン】
医療機関で多く採用される方法は次の三つです。
1.給与からの控除
これは給与支給がある場合のみ可能です。部分休職や短時間勤務開始時によく用いられます。
2.本人から振込で徴収
無給休職の場合の基本方式で、毎月一定日までに指定口座へ振込してもらう方法です。クリニックによっては、月末締め翌月10日までの振込など、ルールを明確にして運用しています。
3.事業主が立て替え、復職後にまとめて控除
業務の混乱を避けるために現場責任者が選びがちな方法ですが、立て替え額が増えすぎて控除トラブルに発展することがあります。私はこの方式を基本的に推奨していません。少なくとも、立て替え上限額を明示しておくことを強くお勧めしています。
【健康保険料について知っておくべき注意点】
休職が長期化し、傷病手当金を申請するケースでは、健康保険料の滞納が発生すると申請手続きに影響が出る可能性があります。医療機関勤務者にとって傷病手当金は生活の重要な補償となるため、保険料の納付が途切れないよう、初動の手続きで確実に案内しておくことが必要です。
また、美容クリニックなど若年女性スタッフが多い事業所では、産前産後・育児休業に関連した保険料免除の制度と混同される傾向があります。病気休職は免除対象ではない点を丁寧に説明し、誤解を避けることが重要です。
【休職期間中の給与処理の実務】
休職中の給与処理については、「完全無給」「一部有給」「有給休暇消化」「特別休暇で有給扱い」など、就業規則と運用の整合性を確保することが最大のポイントになります。
●完全無給の場合
給与明細はゼロ円でも発行するのが望ましい運用です。労働者本人が税金の扶養判定や金融機関手続きで証明を求められることがあるためです。
医療機関では特にスタッフの入れ替わりが多いため、明細を欠かさず発行する仕組みが信頼につながります。
●有給休暇を利用する場合
休職初期に有給休暇を取得させる運用は一般的です。その際、時給換算誤りが問題になることがあります。特に看護師・医療事務の時間外実績が多い職場では、平均賃金か所定労働時間単価かの判断を誤りやすいため、事前に給与規程を確認して処理することが必須です。
●一部のみ特別休暇で有給扱いにする場合
美容クリニックなどでは院長裁量で特別有給対応を行うことが多いのですが、これを毎回例外的に処理すると、他のスタッフとの公平性に疑義が生じます。私は顧問先には「特別休暇の付与基準」を文書化することを推奨しています。後日の説明責任が格段に果たしやすくなります。
【休職と社会保険手続きの連動】
休職に入るタイミングで重要なのは、社会保険の資格は基本的に喪失させないことです。病気休職はあくまで「労務提供ができない状態」であり、退職とは異なるためです。
また、復職時には勤務形態が変動するケースも多く、短時間勤務・時短正社員化など労働条件変更が伴う場合には、標準報酬月額の変動(随時改定)の確認も必要になります。医療現場では、この随時改定の見落としが非常に多く、後に保険者から指摘されることが少なくありません。実務では、復職月と翌月の賃金見込みを必ず確認しておくことが重要です。
【社労士として感じる医療機関特有のリスク】
私が医療機関の労務管理をサポートする中で特に感じるのは、「院長・事務長が多忙で、休職者への初期対応が遅れやすい」点です。社会保険料の徴収方法を決めるのが遅れると、気付いた時には数万円の立て替えになっているケースが後を絶ちません。事前の案内テンプレートや休職手続きのチェックリストを整備するだけでも、かなり運用が安定します。
【まとめ】
休職者の社会保険料負担と給与処理は、医療機関ほど複雑化しやすい傾向があります。特に、スタッフ層が多様で、勤務形態や働き方に幅があるため、統一したルールがないと現場が混乱します。最初の説明と書面管理を適正に行い、後日のトラブル回避につなげることが、安定した組織運営には欠かせません。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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