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小規模医療法人における
「休職規定」設計の重要性

医科クリニックでは少人数編成であるがゆえに、一人の長期離脱が診療体制全体に直結します。特に内科・外科・小児科・整形外科・美容といった診療科では、人材の専門性が高く、突発的な休職に対する代替要員の確保が難しいという構造的課題があります。このため、就業規則における休職規定の設計は、労務リスク管理の中でも最重要ポイントのひとつになります。

私は医療機関を多数サポートしてきましたが、問題が起こるクリニックの共通点として「休職制度が曖昧」「復職基準が不明確」「院長の個別判断に依存」が挙げられます。これらは最終的にトラブルを生み、スタッフ離職・院長の精神的負担・労務紛争リスク増大につながるため、制度化は避けて通れません。

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1 休職規定が必要となる典型的な場面

医科では、以下のような休職理由が多く見られます。

1 メンタル不調による長期離脱
2 整形外科領域の疾患による就業不能(看護・リハ職に多い)
3 妊娠・つわりによる就労制限(特に小児科・美容で顕著)
4 家族介護による長期不在
5 外科スタッフの負傷・療養

これらのケースで休職規定が整っていないと、
・いつまで休職を認めるのか
・給与や社会保険料の取扱いはどうするのか
・復職判断は誰が行うのか
・同じ業務に戻れるのか
といった重要事項が曖昧なまま運用され、最終的には「トラブル化」することが多いです。

私も、規定がなかったために本人・院長・事務長がそれぞれ異なる認識を持ち、関係が悪化した事例を多数見ています。クリニック規模ゆえの近い距離感が、逆に感情的な摩擦を生むという点にも注意が必要です。

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2 休職期間の設定は「最も揉める」部分

休職規定で最も慎重に決めるべきは「休職期間」です。

一般的な中規模医療法人であれば、
・私傷病休職:最長1年
といった設定が見られますが、小規模クリニックの場合は現実的ではないケースが多いです。

実務上、私が推奨する設定例は以下のとおりです。

・連続1か月以上の就業不能で休職扱い
・最長3か月〜6か月を限度
・期間延長は医療法人側に裁量を持たせる

特に看護師・受付・医療事務など、クリニック特有の属人性の高い職種では、半年の離脱で業務再編が必須になります。院長が無理に長期間待つと、現場が疲弊し、残ったスタッフも離職につながりやすくなるため、制度上限は明確に定めておくべきです。

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3 休職中の給与・社会保険料の扱いを明確化する

医療法人では休職中の給与支払いを巡る誤解も多く、特に初めて休職者が出たクリニックでは、以下のような混乱が発生します。

・休職でも給与を払わないと違法では?
・社会保険料は誰が負担する?
・傷病手当金は自動で出るの?

休職は無給でも違法ではありませんが、社会保険料は在籍中は発生します。ここを就業規則に明記していないと、毎月の保険料額でトラブルになりやすいのです。

私の経験上、問題が少ないのは以下のような記載を置くことです。

・休職期間中は無給
・社会保険料は在籍中は法人・本人とも負担が生じる
・本人負担分は給与天引きできない場合、後日本人へ請求
・傷病手当金申請は法人が支援する

特に美容クリニックなど若年層スタッフが多い職場では制度理解が浅いことが多いため、事前説明と規定整備が不可欠です。

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4 復職判断は「診断書だけでは不十分」

休職からの復帰は、診断書一枚で判断するのではなく、就業規則に「復職可否の判断基準」を置くことが重要です。

私が労務相談を受ける中でも、復職前のトラブルは非常に多く、以下の点を制度化していない医療法人ほど紛争化しやすい傾向があります。

・復職前面談の実施
・同一業務への復帰が可能か(特に外科・整形)
・短時間復職を認めるか
・配置転換の可否
・再発時の再休職の扱い

たとえば整形外科のリハビリスタッフが腰痛で休職した場合、フルタイム復帰が難しいケースは現場では日常的にあります。このような場面で、復帰基準が明確であれば双方の期待値が揃い、感情的な摩擦を避けられます。

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5 「自然退職」の規定を置くことで紛争防止効果が高まる

休職期間満了後に復職できない場合の取扱いとして、就業規則に「自然退職」の規定を設けることは実務上極めて重要です。

明確な規定がなければ、
・解雇扱いに該当するのでは?
・不当解雇だと言われるリスク
が発生します。

自然退職条項を適切に設計しておけば、期間満了で在籍関係が終了するため、法的リスクを大幅に低減できます。

小規模医療法人ほど、院長・事務長が個別判断で対応しがちですが、これが最も危険です。制度化によって「公平性」「透明性」を確保することが、紛争回避の最大のポイントです。

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6 医科クリニックで特に重要となる追加ポイント

医科領域では、他業種にはない特有の労務課題が存在します。

1 労働密度が高いため、欠員の影響が即日反映される
2 患者対応のため、代務者の習熟に時間がかかる
3 美容クリニックなどは売上への影響が大きい
4 外科・整形では身体負荷が大きく再発リスクが高い

これらを踏まえると、就業規則の休職規定において、
・部分復帰(短時間勤務)制度
・業務制限を踏まえた配置転換ルール
・再休職の扱い
の設計は不可欠です。

私は日々の顧問先で、これらの制度があるかどうかで現場の安定度が大きく変わることを実感しています。制度があるクリニックほど離職率が低く、スタッフは安心して働ける傾向があります。

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7 就業規則は「作ること」よりも「運用できること」が重要

制度を作ること自体は比較的容易ですが、真価を発揮するのは実際の運用です。小規模医療法人では、院長・事務長・現場責任者が制度理解を共有していないことが多く、そこがトラブルの出発点になります。

おすすめの運用体制は以下のとおりです。

・休職発生時は事務長が窓口となる
・復職前面談は院長+事務長+社労士で行う
・復職後一定期間はフォロー面談を実施
・制度説明書を職員に配布し、認識差を減らす

この運用フローを整えるだけで、「人によって対応が違う」という不満は大幅に減り、クリニックの組織運営が安定していきます。

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まとめ

休職規定は、小規模医療法人にとって「リスク管理」の中核です。曖昧な制度はトラブルを生み、院長の負担を増やし、組織全体の安定性を損ないます。逆に、制度設計が適切であれば、休職者への配慮とクリニック運営の安定が両立します。

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執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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