〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12(鹿沼駅から徒歩5分/駐車場:あり)
受付時間
医療機関において、男性スタッフの育児休業取得が進まない背景には、制度面だけでなく「文化的な壁」が依然として存在しています。特に内科・外科・小児科・整形外科・美容医療といった外来・入院・手術・予約制を併せ持つ医科クリニックでは、シフト制や業務の属人化が強いため、男性の育児休業取得が「現実的ではない」と考えられがちです。しかし、法改正により育児休業の取得義務化・取得率の公表義務などが強化され、クリニック運営にも確実に影響が及んでいます。
社労士として多くの医療法人を支援している中で、「制度はあるが、誰も使っていない」という声を繰り返し耳にしてきました。制度を使わない背景には、一つとして業務設計の未整備、二つとして評価制度の不安、そして三つとして院長や管理職の価値観が変わらないという組織文化の問題が挙げられます。本稿では、医科クリニックが現実的に取り組める男性育児休業の促進策と文化改革の実務を整理します。
【1 医科クリニック特有の「男性育休が取りにくい構造」】
医療機関は、一般企業以上に「人が抜けると業務が止まる」構造が強い職場です。
特に以下の特徴が男性スタッフの育児休業取得を阻害しています。
・受付・医療事務が少人数で属人化している
・外科や整形外科など手術日・処置日のスタッフ配置が固定
・小児科では繁忙期が明確で人員調整が難しい
・美容医療は予約制で代替要員確保が困難
また、男性スタッフ自身が「迷惑をかけるのではないか」「評価に影響するのでは」という心理的負担から、一歩踏み出せないケースも多く見られます。
私自身、多くの男性スタッフが「取りたい気持ちはあるが、言い出せない」という相談を寄せてくれたことがあります。文化的なハードルが確かに存在していると強く感じています。
【2 制度を活用しやすくするための運用設計】
男性育児休業を機能させるには、就業規則・評価制度・シフト設計の三つを連動させる必要があります。
(1)就業規則に「申し出ルート」と「判断基準」を明確化
育児休業の申し出方法、必要書類、院長・事務長の承認プロセスを文章化することで、男性スタッフが相談しやすくなります。
(2)育休取得者への不利益取扱い禁止の明文化
法律上当然の義務ですが、明文化することで現場リーダーにも共通認識が生まれます。特に評価制度と連動させることが実効性を高めます。
(3)育児休業中の業務代替計画
外来クラーク・医療事務・看護助手など、業務範囲を棚卸しし、パート増員・派遣活用・業務の簡素化を事前に検討します。
医療機関では、業務の属人化を解消するための「業務マニュアル化」が特に効果的です。実際、私が関与したクリニックでは、育休取得者が出る前に業務棚卸しを実施し、結果として常勤・パートの役割分担が明確になり、取得後も業務停止を防ぐことができました。
【3 管理者の価値観改革が最重要課題】
育児休業の取得促進で最も重要なのは、「院長・看護師長・事務長の価値観を揃えること」です。
医療業界では、男性スタッフの育休取得に対して「本当に必要か」「一人抜けただけで大変になる」という反応が依然として残っています。
しかし、実際には男性スタッフが育児休業を取得することで、以下のような効果が生まれます。
・離職率が下がり、採用コストが低減
・スタッフの働き方への理解が深まり心理的安全性が向上
・スタッフの家庭状況への理解が深まり、組織全体の連携が強化
・院長夫婦経営の場合、家庭と仕事のバランスの話題が共有されることで組織の風通しが良くなる
私が支援した美容クリニックでは、男性スタッフの取得をきっかけに、看護師から「私もこのタイミングで育休を取りたい」と相談が増えるなど、ポジティブな波及効果が確認されました。
【4 「取得しやすい職場文化」をつくる具体策】
医科クリニックが実際に取り組みやすい文化改革策を以下にまとめます。
(1)院長からのメッセージ発信
院内掲示や朝礼で「男性の育児休業取得を歓迎する」姿勢を示すことが最大の効果を生みます。
(2)取得事例を共有
誰がどのように休業し、どのように復帰したかを共有すると、スタッフの安心感が大幅に高まります。
(3)短期間の「産後パパ育休」をまず実践
いきなり数カ月の育休は難しくても、2週間程度の産後パパ育休なら導入しやすく、現場も対応しやすいのが特徴です。
(4)復帰後の働き方の柔軟性
短時間勤務・シフトの調整・段階的復帰を組み合わせることで、男性スタッフの取得ハードルを下げることができます。
(5)評価制度で不利益が出ない運用
「育休取得はキャリアに影響しない」という評価制度上の仕組みが必要です。
私が制度構築を支援したクリニックでは、育休取得を業績評価に影響させないルールを明文化し、取得率が大きく上昇しました。
【5 医療機関が男性育休を促進するメリット】
医療機関にとってのメリットは、単なる「法令順守」に留まりません。
・採用強化につながる
・スタッフの長期定着を促進
・院内の心理的安全性が高まり医療安全にも寄与
・院長夫婦経営の場合、家庭理解の共有により組織の安定性が向上
・育児と仕事の両立を支える土壌が整い女性スタッフにも好影響
特に小児科や美容クリニックでは、患者層との親和性も高く、育児支援への積極性を示すことでブランディング効果も期待できます。
【まとめ】
男性スタッフの育児休業取得促進は、制度整備だけでなく、管理者の意識改革と組織文化の転換が不可欠です。医科クリニック特有の人員配置の難しさはあるものの、業務棚卸し・代替要員の活用・取得事例の共有など、現場に合った運用を組み合わせることで、無理なく実現できます。私自身、数多くの医療機関を支援する中で、「制度をきっかけに職場の雰囲気が変わる」ケースを多数見てきました。男性育児休業は、これからの医療機関にとって確実に競争力を高める要素となります。しっかり制度を整え、文化改革へとつなげていくことが重要です。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
お電話でのお問合せ・相談予約
<受付時間>
9:00~17:00
※土曜日・日曜日・祝日は除く
フォームは24時間受付中です。お気軽にご連絡ください。