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医科クリニックでは、人事管理を院長や院長夫人が担うケースが少なくありません。特に小規模クリニックでは、組織の中に専任人事担当者を配置することが難しく、経営を支える立場として院長夫人が採用・労務・評価を兼務する状況が広く見られます。しかし、院長夫人が人事業務に深く関与することで、スタッフ側に「公平性は担保されているのか」「好き嫌いで判断されるのではないか」という不信感が生じることもあり、離職やトラブルの火種となる場面に社労士として数多く立ち会ってきました。
本稿では、医科(内科・外科・小児科・整形・美容)に特化した視点で、院長夫人が人事管理を担う際に「私情を挟まない制度運用」を実現するための具体的なポイントを整理します。現場で実際に相談を受けてきた社労士としての経験も織り交ぜ、制度運用の実務的な対策を提示します。
【1 評価制度は「基準の事前提示」と「記録の残し方」で公平性を担保する】
院長夫人がスタッフの評価を担当する場合、もっとも誤解が生じやすいのが評価基準の曖昧さです。特に医科クリニックでは、看護師・医療事務・受付・クラークなど職種ごとに役割と成果が異なるため、統一基準がなければ「感覚評価」になりがちです。
社労士として現場でよく見るケースとして、「スタッフが院長夫人から直接叱責され、その内容がそのまま評価に反映された」という相談が多々あります。このような運用は高確率で労務トラブルを引き起こします。
対策として重要なのは、次の2点です。
・評価基準を数値や行動に落とし込む
・日々の行動記録を基に評価する運用ルールを明文化する
たとえば「受付の患者対応」という抽象的な項目を、「初診患者への案内時間」「予約確認の正確性」「クレーム対応時の報告フロー遵守」など具体化するだけで、評価根拠が客観化され、公平性が格段に高まります。
【2 家族関係と業務指揮系統を混同させない「権限と役割の線引き」】
院長夫人が現場に常駐しているクリニックでは、院長との家族関係が前面に出てしまうことで、スタッフが「夫婦の指示のどちらを優先すべきか」と迷うケースが起きます。
ある整形外科クリニックでは、院長と院長夫人が異なる指示を出し続けた結果、現場が混乱し、スタッフの心理的負担が大きくなったため離職が続いたことがありました。ヒアリングの結果、院長夫人の役割範囲が曖昧で、スタッフが指揮命令系統を理解できていないことが原因でした。
このような混乱を防ぐには、
・院長夫人が担う業務範囲(採用・勤怠チェック・事務部門管理など)を文書化する
・現場指示は院長が最終決裁者であることを明確にする
・患者対応領域(特に医療行為に関わる判断)には介入しないルールを設ける
といった「役割の可視化」が不可欠です。
【3 ハラスメントと受け取られないコミュニケーションの確立】
院長夫人が人事権を持つ場合、スタッフが指摘や指導を「個人的な感情による叱責ではないか」と受け取ることがあります。とくに美容クリニックでは接遇レベルへの要求が高いことから、指導が強くなりやすく、パワハラ相談につながりやすい傾向があります。
私の現場対応経験では、院長夫人は「医院をよくしたい」という純粋な思いで指導しているケースがほとんどですが、伝え方次第で誤解が生まれてしまうことが多いと感じています。
そこで重要なのが、
・事実ベースで伝える
・改善提案の理由を添える
・1対1ではなく、管理者同席の場で指導する
など、コミュニケーションの透明性を高める工夫です。これにより、スタッフの心理的抵抗が減り、誤解も大幅に軽減されます。
【4 就業規則・院内ルールに基づく「手続き運用」の徹底】
人事管理において最も重要なのは「ルールで判断する」という姿勢です。特に院長夫人が労務管理を担う場合、スタッフは「夫婦の裁量で決めているのでは」と疑念を抱きやすいため、制度運用の透明性が欠かせません。
そのためには、
・遅刻・欠勤の取り扱い
・有給休暇の申請フロー
・残業命令と手当支給の基準
・評価・昇給・降格の手続き
などを全て就業規則および院内部門ルールに従って処理することが基本です。
社労士として常にお伝えしているのは、「人事判断は制度に沿って淡々と行うこと」。これが感情の介入を最小化し、スタッフに安心感を与える最強の方法です。
【5 第三者視点の導入が“公平性”の最終的な担保となる】
院長夫人が人事を担う場合、どうしても主観的判断が混じってしまうリスクはゼロにはできません。そのため、次の仕組みも非常に有効です。
・評価面談に管理者(看護師長、事務長)を同席させる
・社労士や外部コンサルが制度運用を定期チェックする
・スタッフアンケートによって温度感を把握する
実際に私が支援している内科クリニックでは、外部社労士である私が半年に一度、評価制度や勤務管理の運用状況を監査し、問題があれば是正提案を行う仕組みを設けています。その結果、スタッフの不満が大幅に減り、定着率が向上しました。
第三者の視点が入ることで「公平性の担保」が客観的に示され、クリニックの人事運営が安定することを現場で実感しています。
【まとめ】
院長夫人が人事を担う場合、「感情の介入を抑えるための仕組みづくり」が何より重要です。評価基準の明確化や権限の可視化、コミュニケーションの透明性、そして就業規則に基づく手続き運用を徹底することで、スタッフからの信頼を獲得し、離職率の低下にもつながります。
人事は「仕組み」と「運用」の両輪で成り立ちます。院長夫人が担う場合こそ、制度運用のプロである社労士と連携し、組織の公平性と生産性を高める運営を目指すことが欠かせません。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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