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医療機関では、医療事務と看護スタッフが日常的に情報を共有して業務を進めています。しかし、両者の役割分担が曖昧であったり、コミュニケーションが不足していたりすると、受付から診察、会計までの一連の流れで大きな混乱が生じます。特に小規模クリニックでは、限られた人員で業務を回しているため、わずかな連絡漏れが患者対応の遅延、スタッフのストレス増大、医療安全リスクにつながることも珍しくありません。
私が医療労務を担当する中で最も頻繁に相談を受けるのが、「看護師と医療事務の関係性悪化」「役割の押し付け合い」「言った言わない問題」です。この構図は内科・外科・小児科・整形外科・美容クリニックのいずれでも発生しやすく、院長自身も状況を把握できないまま現場の雰囲気が悪化していくケースをよく見てきました。
以下では、連携不全が起こる要因と、社労士の視点から提案できる改善策を整理します。
【1 連携不全が起こる典型的な要因】
1)役割の境界線が不明確
医療事務は受付・会計・レセプト、看護師は診療補助・処置・患者の観察が主業務ですが、実際には「患者説明」「問診の補助」「物品準備」など曖昧な領域が多く、押し付け合いや不満につながります。
2)忙しさによる連絡省略
医科クリニックはピークタイムが非常に偏りやすく、特に小児科や美容では急な予約変更や処置追加が頻発します。看護側が口頭で伝えたつもりでも事務が把握しておらず、ダブルブッキングや待ち時間増加が発生することがあります。
3)情報伝達方法が属人化
紙メモ、口頭、LINE、電子カルテなど複数の連絡経路が混在していると、誰がどの情報を持っているのか不明になります。私が関与した整形外科クリニックでは、看護師がLINEで送った内容を事務が確認しておらず、処置室が混乱する事案がありました。
4)チーム医療への意識不足
「私は看護だから」「私は事務だから」という縦割り意識が残ると、患者の流れ全体を俯瞰する視点が持てず、互いの業務負担を想像できなくなります。
【2 連携不全が招く具体的な問題】
・受付と診療の連携ズレによる待ち時間増大
・看護師の業務量偏在による疲弊
・事務スタッフの精神的負担増加
・ミスによる医療安全リスク(特に処置・投薬・説明ミス)
・患者クレームの増加
・職場の対立構造・離職リスクの上昇
労務相談の場では、「事務がミスばかり」「看護師が指示を守らない」といった声が双方からあがり、感情的な衝突に発展しているケースを多く見てきました。
【3 改善のための実務的アプローチ】
ここからは、実際に私が医療機関に導入を推奨している改善策を解説します。
(1)役割分担を文書化し、スタッフ全員で共有
曖昧な境界線を明確化するため、受付→診察→会計の各工程を洗い出したうえで、「事務担当」「看護担当」を整理した役割分担表を作成します。
特に美容クリニックでは、カウンセリングや見積もり作成の権限範囲を定めることでトラブルが激減します。
(2)情報伝達ルールを一本化
電子カルテのメッセージ機能や、共有ノートなど、確認漏れの少ない方法に統一することが重要です。
「患者の補足情報はカルテ以外で伝えない」「予約変更は必ずシステム上で処理」などの明確な運用ルールを設けます。
(3)定例ミーティングの導入
短時間でも良いので、毎週または毎日「本日の注意点・予約状況・トラブル共有」を行う場を設けます。
私の経験では、この10分のミーティングが連携不全の8割を解消します。
(4)感情的対立を放置しない
看護と事務の対立は、労務問題の火種になりやすい領域です。
院長が間に入るのが難しい場合、社労士など第三者を交えて面談し、事実整理と改善案のすり合わせを行うと効果が高いです。
(5)「患者視点」を基軸にした評価制度の導入
単なる職種間の対立ではなく、「患者満足度向上」という共通目標に目線を揃えると、相互理解が進みます。
診療フロー全体を評価軸に組み込むことは、私が医療機関で推奨する定番手法です。
(6)新人研修の共同化
看護・事務それぞれ単独で研修するのではなく、患者対応・院内ルール・電子カルテの基本操作などは共通研修化し、「同じ基準で働く」という意識を醸成します。
【4 社労士として感じるポイント】
医療機関の労務管理で最も難しいのは、職種ごとの専門性が高い一方で、院内オペレーションは互いに密接に関連しているという点です。
そのため、どちらか一方が悪いという構図をつくらず、業務プロセスの最適化として整理することが重要です。
また、職種間トラブルは離職やハラスメントに発展する可能性があることから、早期介入が効果的だと強く感じています。
【まとめ】
医療事務と看護スタッフの連携不全は、単なるコミュニケーション不足ではなく、「役割」「情報共有」「組織文化」という複数要素が絡む構造的な問題です。
社労士としては、現場ヒアリングをもとに制度と運用の両面から整理し、患者満足度と職場環境の双方を向上させる支援が求められます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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