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スタッフ同士のLINEトラブル・SNS投稿問題への就業規則対応

医療機関では、院内コミュニケーションが円滑に見えても、実際にはスタッフ同士のLINEグループや個別チャット、または個人SNS投稿が原因となるトラブルが急増しています。医科の職場特有の緊張感や多職種連携の難しさが背景にあり、感情のすれ違いや不用意な言動が一気に拡散され、職場の信頼関係を揺るがすケースも珍しくありません。
本稿では、労務管理の専門家として、就業規則でどこまで管理できるか、どのように規定すべきかについて、実務的視点から整理していきます。


【1 医療現場で増加するLINE・SNSトラブルの構造】
内科・外科・小児科・美容クリニックを問わず、医療現場では職種間の立場の違い、年齢層の差、雇用形態の多様化が進んでいます。そのため、公式な連携ルートではなく、LINEグループで連絡を取り合う文化が自然発生しやすい環境です。

しかし、非公式のグループは以下のような問題を内包します。

・業務連絡と雑談が混在して情報の正確性が担保されない
・急なメッセージでオンオフが曖昧になりメンタル負荷が高まる
・陰口・排除的なやり取りが固定化しハラスメントへ発展する
・退職後にスクリーンショットが外部流出する
・個人のSNSに院内情報が投稿される

実際、私の支援先でも「控室での会話をスタッフがSNSに投稿し、患者と家族に伝わって院長に苦情が入った」「教育係と新人がLINEで口論し、新人が出勤不能になった」など、医療機関ならではの高リスクな事例を経験しています。


【2 就業規則で管理すべき項目と法的根拠】
スタッフの個人間コミュニケーションは本来プライベート領域ですが、業務に影響を及ぼす場合、就業規則で一定の制限やルールを設けることが可能です。特に以下の項目は明確な規定化が求められます。

(1)業務連絡手段の公式化
「業務連絡は指定ツール(例:勤怠システム、業務チャット)で行うこと」と定めることで、LINE運用が半ば強制となる状態を避けられます。
プライベートツールによる業務拘束は労働時間の認定とも関連し、トラブルの火種になりやすいため、就業規則上の明文化が有効です。

(2)プライバシー保護とハラスメント禁止
LINEグループでの侮辱行為や排除的言動はパワハラに該当する可能性があり、職場秩序維持義務の観点から規制可能です。
「職務の内外を問わず、職場の秩序を乱すSNS等の言動を禁止する」条文は、医療機関では必須と言えます。

(3)情報漏えい禁止
院内の患者情報はもちろん、スタッフの個人情報や内部運営情報は機密に該当します。SNS投稿のリスクは医療機関特有の重大リスクであり、懲戒規程との結びつきを明確にしておく必要があります。

(4)業務外の不適切行為と服務規律
厚労省通達でも、業務外の行為であっても企業の社会的評価を著しく損なう場合は、懲戒対象になり得るとされています。
医療サービス業は社会的信頼が基盤であり、看護師・受付・医療事務・美容スタッフのSNS投稿は患者層の信頼に直結します。


【3 医療現場で実際に起きた典型トラブルと対応策】

(1)LINEでの「新人いじめ」
年齢差の大きい現場ほど起こりやすく、既存スタッフがグループ内で新人の失敗を揶揄し、孤立させるケースがあります。
就業規則のハラスメント規定を根拠に指導し、同時にグループの存在自体を業務利用禁止にすることで収束した例があります。

(2)夜間の急なメッセージで疲弊
「明日のシフト変わって」「患者の情報共有しておくね」といった業務メッセージが22時以降に来て、常にスマホに縛られる状態になった看護師の例もあります。
就業規則に「勤務時間外の業務連絡の禁止」を入れることで改善したクリニックもあります。

(3)SNSでの控室写真投稿
美容クリニックで多発しがちで、雰囲気の良さを伝える目的であっても背景に患者情報が写り込み、トラブルに発展することがあります。
情報管理規程と懲戒規程の結び付けが不可欠です。


【4 実務的に機能する就業規則の書き方】

医療機関向けには次のような条文構成が効果的です。

・業務連絡は指定ツールに限定する
・非公認LINEグループでの業務連絡を禁止
・勤務時間外の業務連絡は原則として行わない
・SNSでの患者情報・院内情報・スタッフ情報の一切の投稿禁止
・職務内外を問わず、職場秩序を乱すオンライン言動の禁止
・違反した場合の懲戒処分区分の明確化(注意・戒告・減給など)

これらを明確化することで、後から「知らなかった」「悪気はなかった」という主張を防ぎ、管理側の対応が著しく容易になります。


【5 社労士として感じる“医科特有の落とし穴”】

医療現場を多く支援してきた立場から痛感するのは、スタッフのSNSリテラシーが一般事業所と比べて極端にばらついていることです。
医療事務や看護スタッフは20代から50代まで幅広く、価値観の違いがトラブルを引き起こしやすい状況があります。

また、小児科・美容クリニックでは「スタッフ同士が仲良すぎる」環境も問題を誘発します。
仲の良いLINEグループほど、感情的なトラブルや私語の延長で患者情報が漏れるリスクが高まるため、制度的な牽制力が必要です。


【6 運用段階での教育とフォロー体制】

就業規則を整備しただけでは機能しません。
以下の“運用三点セット”を整えることで、ようやく現場が安定します。

・スタッフ向け年1回のSNSリスク研修
・管理職向けのLINEトラブル対応マニュアル
・違反事例と対処方針を蓄積し共通ルール化する

特に研修は効果が大きく、実際に私が担当したクリニックでは「スタッフ間の夜間LINEが9割以上減った」「SNSトラブルによる患者クレームがゼロになった」などの改善が得られています。


【まとめ】
LINEやSNSのリスクは、医療機関の信頼を損なう重大な経営課題です。就業規則の整備と運用改善をセットで取り組むことで、予防と再発防止の両立が可能となります。
人間関係が複雑になりがちな医科の現場だからこそ、制度という“第三者の線引き”が不可欠です。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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