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医療現場では、診療の質だけでなく「院内の雰囲気」もスタッフの働きやすさや患者サービスに直結します。内科・外科・小児科・整形外科・美容クリニックなど、診療科を問わず、スタッフ間のコミュニケーション不足が蓄積すると、表面化していない不満や誤解が日々の業務に影を落とし、離職にもつながることがあります。こうしたリスクを未然に防ぐため、私が医療機関に強く推奨している施策が「院内コミュニケーション面談」制度です。
私は社労士として多くの医療法人を支援していますが、「トラブルが起きてから相談が来る」というケースが圧倒的に多いのが実情です。実際の現場では、すれ違いや不満が小さなうちに拾えていれば大事にならなかった案件が非常に多く、初期段階での対話の仕組みが整っていないことが原因となる例を多数見てきました。そのため、制度化されたコミュニケーション面談は、医療現場の労務リスクを下げるために極めて有効な対策となります。
第一章 なぜ医療現場にコミュニケーション面談が必要なのか
医療機関は専門職の集合体であり、看護師・医療事務・放射線技師・リハビリスタッフなど、職種の役割や価値観の違いが大きい職場です。特に外科や整形外科では処置やオペ補助が多く緊張感が高くなりやすいため、些細な言葉遣いのズレや周囲のサポート不足を巡る摩擦が起こりやすい傾向があります。
小児科では、親対応が過重負担になりスタッフ同士で責任の押し付け合いが起きることもあります。美容クリニックでは、患者とのコミュニケーション力が求められるため、スタッフ同士の不仲がサービス品質低下に直結します。
こうした背景から、医療機関には「感情労働」「専門職間連携の難しさ」「患者対応の負荷」という特徴があり、定期的な対話の場を設けることが不可欠です。
第二章 コミュニケーション面談の目的
この面談は評価や査定とは別に行うことが最大のポイントです。目的は三つに整理できます。
一つ目は、スタッフの心理安全性の確保です。安心して意見を述べられる環境をつくることで、問題の早期発見につながります。
二つ目は、院内の価値観のすり合わせです。院長の方針・業務の優先順位・患者対応の標準化などを、現場と定期的に共有していくことが重要です。
三つ目は、離職防止です。面談によって小さな不満を吸い上げることで、退職予兆を早期に察知し、適切にフォローできます。
第三章 制度化する際の具体的な運用方法
コミュニケーション面談は、「思いつき」で行うと形骸化します。制度として明文化し、就業規則や院内ルールに位置付けることで安定した運用が可能になります。
(1)実施頻度
月1回を基本とし、忙しい診療科では2ヶ月に1回でも構いません。重要なのは「定期性」であり、不定期だとスタッフは意見を出しづらくなります。
(2)実施者
一般的には院長、事務長、看護師長などの管理職ですが、院内の人間関係が複雑な場合は、第三者として社労士が面談に入ることも有効です。私は複数の医療法人で外部面談者として関与しており、第三者が入るとスタッフが驚くほど本音を話しやすくなるという効果を実感しています。
(3)面談の流れ
面談は次のステップを基本に据えます。
①最近の業務状況のヒアリング
②ストレス要因の確認
③人間関係・情報共有に関する課題の確認
④改善案の共有
⑤必要に応じて院長や管理職への報告
医療機関では、「言った」「聞いてない」がトラブルの火種になります。面談記録を必ず残し、双方で確認する運用が必要です。
(4)プライバシー配慮
スタッフの個別相談は、他のスタッフに内容が漏れないよう十分な配慮が必要です。面談室の確保や時間帯の調整も重要です。
第四章 院内の空気を守る「早期発見」と「早期調整」
医療現場の労務トラブルで多いのが、問題が表面化するまで誰も気づかないケースです。特に看護師や医療事務は「我慢する文化」が強く、小さな不満を抱えたまま業務を続け、ある日突然離職してしまうことがあります。
コミュニケーション面談は、小さな違和感を拾い、関係調整を行う“クッション機能”として機能します。私自身、面談で「実は先輩が怖くて何も言えない」「院長夫人の指示が分かりづらい」といった本音が引き出され、その後の職場改善につながった事例を数多く経験してきました。
第五章 制度導入の際の注意点
制度導入時には、以下のポイントを押さえる必要があります。
・面談を「評価」や「監視」と誤解されないよう説明する
・面談結果を処遇に直結させない
・院長自身がこの制度の重要性を理解し、継続を表明する
・改善事項が生じた場合は必ず実行し、スタッフにフィードバックする
制度は運用されて初めて価値を持ちます。形だけ導入して改善が伴わなければ、逆に不信感を招く点に注意する必要があります。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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