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医科クリニックでは、院長夫人が人事や教育、運営管理に関与するケースが少なくありません。特に内科・小児科・整形外科・美容クリニックなど、院長自身が診療に集中し、運営を夫人がサポートする構図では、ベテランスタッフとの摩擦が表面化しやすくなります。ここでは、対立が生まれる原因を整理し、仲介のポイントを実務的に解説します。社労士として現場介入してきた経験も交えてお伝えします。
【第一章 対立構造が生まれやすい背景】
院長夫人が現場に入る場合、役割の境界が曖昧になりやすい点が最も大きな問題です。特に、夫人が「経営側」の意識で動く一方、ベテランスタッフは「現場の実務」を重視するため、判断基準や価値観が大きく食い違います。
院長夫人は「クリニックの方向性」「患者サービス向上」を重視して指示を出しがちですが、ベテランスタッフは「日々の効率」「現場リスク」「既存の慣行」を基軸に判断します。これらが噛み合わないことで、些細な会話でも火種となります。
実務でよく見るのは、夫人が新しい方針やルールを導入しようとし、それに対してベテランスタッフが「現場を分かっていない」と反発するケースです。私の経験でも、特に小児科や美容分野では、この傾向が顕著です。
【第二章 院長夫人が抱えやすいストレス構造】
院長夫人の立場は、外部から見れば権限が強いように映る一方、実際には「院内唯一の相談相手が院長しかいない」という孤立したポジションになりがちです。さらに、スタッフからの反応が直接自分の人格評価のように感じられ、不要な感情的判断を招くことがあります。
また、夫人自身が医療資格を持たない場合、医療職スタッフとの専門性ギャップが摩擦を強めます。医療現場特有の専門性や判断の難しさが理解できず、改善案が「現実的でない」と受け止められるケースも非常に多いものです。
【第三章 ベテランスタッフ側の心理構造】
ベテランスタッフには「現場を守る」という責任感があります。長年の運営や患者対応の積み重ねから、ベテランにはベテランなりの「最適解」が確立されているため、新たな指示に対して慎重になるのは自然です。
特に内科や整形外科では高齢患者やリスクの高い患者対応が多く、現場のオペレーションには安全性と安定性が欠かせません。突発的に導入された変更は、医療ミスや患者満足度の低下につながる懸念があり、反発を生みやすくなります。
さらに、院長夫人からの指示に対して「院長の家族だから逆らいにくい」という圧力もあり、気持ちを吐き出せず不満が蓄積しやすい点も見逃せません。
【第四章 社労士として見る、対立の根本原因】
社労士として多数の医科クリニックを見てきた経験から言えるのは、対立の多くは「ルールの不在」「役割の曖昧さ」「感情の未整理」が複合的に重なって起こるということです。
具体的には以下の三つが代表的です。
・役割区分が曖昧で双方のラインが見えない
・コミュニケーションルートが整備されていない
・改善提案のプロセスが制度化されていない
特に、夫人が部分的に現場に入るクリニックでは「スタッフは誰の指示を優先すべきか」が曖昧なまま運用されていることが多く、これが火種となります。
【第五章 仲介における実務的ポイント】
対立を緩和するためには、感情論ではなく、制度的な調整が極めて有効です。ここでは社労士として介入してきた際に効果のあった施策を紹介します。
(1)役割と権限の明確化
夫人の役割を「管理・運営」「スタッフ育成」「バックオフィス補助」など区分し、現場リーダーや看護師長との指示系統を整理します。これにより「誰の指示を優先するか」が明確になり、不要な摩擦が減少します。
(2)コミュニケーションの正式ルートを設定
院長夫人が現場スタッフに直接伝えるのではなく、院内ミーティングやリーダー会議を介する仕組みにします。私が関与したクリニックでも、この導線変更だけでトラブルが激減しました。
(3)改善提案は文書化し、議事録ベースで検討
双方の主張を「手順」「運営」「患者対応」などの分類で整理し、事実ベースでの議論に切り替えます。
(4)第三者による定期的な調整会議の実施
私自身が仲介役として、夫人とベテランスタッフ双方にヒアリングを行い、改善計画に落とし込むケースも多いです。第三者が入るだけで感情の暴走が抑制されるメリットがあります。
【第六章 医科クリニックだからこそ必要な視点】
医科クリニックは、医療従事者と非医療従事者が混在する特性から、価値観や判断基準にギャップが生まれやすい環境です。
小児科では親対応、整形外科ではリハスタッフとの連携、美容クリニックでは顧客サービス基準の違いなど、夫人が直接理解しづらい領域が多いため、制度化や情報共有の仕組みが不可欠です。
現場の専門性と経営の視点を橋渡しする仕組みが整って初めて、対立の根を断ち切ることができます。
【まとめ】
院長夫人とベテランスタッフの対立は、性格の不一致ではなく、制度的な不備と役割の曖昧さから発生するケースが大多数です。感情論ではなく、指揮命令系統や情報共有ルートの整備を軸に、再現性のある運用を構築することが解決の近道となります。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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