〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12(鹿沼駅から徒歩5分/駐車場:あり)
受付時間
慢性疾患フォローに軸足を置くクリニックが増える中、診療プロセスの最適化は避けて通れません。特に生活習慣病を中心とした継続受診型の患者層が多い外来では、医師の判断業務とスタッフの周辺業務をどこまで切り分けるかが、労務管理上の重要なテーマとなります。私自身、医科専門の労務コンサルティングで多数のクリニックと関わる中で、慢性疾患中心体制に移行したことで業務過多や役割の曖昧さが可視化され、スタッフ間の摩擦や離職につながった事例を多く見てきました。
第一に、業務フローの「標準化」が欠かせません。慢性疾患フォローは、初診と比較し診療内容の変動幅が小さく、一定のルーティンが生じる特性があります。問診の項目、バイタル測定、生活指導のポイント、次回予約の案内など、一定の定型プロセスとして洗い出せば、職種ごとの役割分担が非常に明確になります。例えば、看護師が主導する問診テンプレートを整備することで医師の確認作業が大幅に短縮され、診察室の回転率が上がったケースもありました。
次に重要なのが「タスクシフト」の設計です。医師の判断業務と、医師でなくても処理できる周辺業務を切り分ける作業は、慢性疾患フォローの質にも直結します。血圧・体重測定、問診の一次ヒアリング、検査案内、薬局連携、次回予約、生活習慣指導の基本部分については、看護師や医療事務でも担える領域が広くあります。労務的には、タスクシフトを明文化しておくことで、職務範囲の曖昧さから生じるトラブルを未然に防ぎ、評価制度との整合性も取りやすくなります。
第三に「スタッフ教育」の体系化が必要です。慢性疾患フォローは一定のパターン化が可能とはいえ、患者ごとのリスク要因や生活背景には幅があります。教育が属人的であると、看護師・事務の判断レベルが大きくばらつき、医師からの差し戻しが増え業務効率が落ちます。私が支援したクリニックでは、生活習慣病患者向けの説明マニュアル、問診ガイド、リスク別チェックリストを整備したことで、スタッフの判断精度が安定し、医師から「診察前の準備が均質化して助かる」と評価されました。
さらに「診察前プロセスの強化」は慢性疾患フォロー体制では特に重要です。問診・バイタル測定・前回指導内容の確認・検査結果の準備が揃った状態で診察室に入れるかどうかで、医師の業務量は大きく変わります。医療事務が前回カルテの要点をピックアップし、看護師が生活指導の進捗を確認することで、診察時の説明も簡潔になり患者満足度も高まります。労務管理の視点では、役割分担を明確にした運用は評価基準としても活用でき、スタッフ間の公平感向上にもつながります。
加えて「フォローアップの分業」も有効です。慢性疾患の特性上、継続的な患者フォローは治療成績にもクリニック経営にも関係します。電話・SMSでの受診案内、検査結果の説明補助、食事や運動習慣のフォローなどは、看護師主導のチーム制を敷くことで効率化できます。社労士として関与したケースでは、看護師主導のフォローアップを導入した結果、定期受診率が改善し、売上とスタッフの働きがいの両面でプラスの効果が見られました。
最後に、業務分担を最適化するには「労務管理の仕組み」との連動が不可欠です。タスクシフトを行う際は、就業規則や職務分掌表への明文化、評価項目の改定、研修計画との連動など、人事制度全体の整合性が求められます。特に職種間の境界が曖昧な医科現場では、口頭運用に頼るとトラブルを招きやすく、役割不一致が離職理由として顕在化します。私の経験上、制度と現場運用の両面を整理したクリニックほど、スタッフ定着率も高く、診療プロセスに無理がありません。
慢性疾患フォローを中心に据えるクリニックでは、業務フローの標準化、タスクシフトの明確化、教育体系の構築、フォローアップの分業が鍵となります。医師の判断業務に集中できる体制を整えつつ、スタッフが専門性を発揮できる役割配置を設計することで、医療の質と生産性の両立が可能となります。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
お電話でのお問合せ・相談予約
<受付時間>
9:00~17:00
※土曜日・日曜日・祝日は除く
フォームは24時間受付中です。お気軽にご連絡ください。