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高齢化の進展に伴い、外来・入院を問わず高齢患者の割合が増加しています。医療現場では、説明時間の長期化、移動介助、家族対応、服薬管理の確認など、業務量が目に見えて増加する傾向があります。特に無床診療所や小規模医療法人では、人数配置にゆとりがないため、スタッフ一人あたりの負担上昇が離職の主因となるケースが少なくありません。私は社労士として医科クリニックからの相談を受ける中で「高齢患者が増えてから、勤務後の疲労感が以前より強くなり、残業が慢性化した」という声を複数の現場から聞いています。本稿では、医療現場特有の課題を踏まえ、スタッフ負担を適切に管理するための方策を整理します。
第一に、業務プロセスの標準化と役割分担の再定義が必要です。高齢患者対応は、個別性が高い一方でプロセス自体は共通するパターンがあります。たとえば問診時の説明補助や移動支援など、誰が・どのタイミングで・どこまで行うかを明確にしておくことで、属人的対応を減らし、作業の平準化を図ることができます。職種間の「暗黙の了解」に依存した体制は、負担の偏りと不満の温床です。実際、私が関わった内科クリニックでは、看護師と医療事務の間で高齢患者の移動介助の担当が曖昧で、業務量のバランスが崩れていました。業務フローを可視化し、担当区分を仕切り直したことで、残業が月あたり10時間程度削減された事例もあります。
次に、コミュニケーションの難しさから発生する時間的ロスをいかに抑えるかが課題となります。高齢患者は聴覚・理解力の低下を抱えることが多く、説明業務が長期化しがちです。これを個々のスタッフの努力に委ねると、精神的負担が増し、対応の質にもばらつきが生じます。効率化のためには、説明用リーフレットの整備、チェックリストの導入、繰り返し説明が必要な事項の定型化が効果的です。特に医療事務が電話や窓口で説明する際、共通フォーマットがあれば話の抜け漏れが減り、再来院やクレームの防止にもつながります。
三つ目のポイントは、家族対応の整理です。高齢患者には家族が同席することが多く、説明対象が二重になるケースがあります。特に認知症を伴う患者では、家族側に説明責任が移りやすく、スタッフが時間的に拘束される傾向があります。家族対応の方針を院内規程として明文化することで、スタッフが迷わず行動でき、対応差によるトラブルも防げます。私のクライアントであるある外科クリニックでは、家族面談の担当を看護師長に限定し、他スタッフは事前説明のみ対応する仕組みに変更したところ、日中の現場負担が大幅に軽減しました。
また、身体介助や移動支援が増えることで、スタッフ自身の身体的疲労が蓄積しやすくなります。医科クリニックは介護施設ではありませんが、実質的に身体介助に近い業務が発生する場面があります。ここで重要になるのが、安全衛生面を考慮した業務環境の整備です。歩行器の配置、待合室の動線設計、転倒を避けるための動線誘導、休憩取得の徹底など、職場環境改善はスタッフの健康管理に直結します。労働安全衛生法上のリスクアセスメントとしても意義がある領域です。
五つ目に、人員配置の再検討も避けて通れません。高齢患者比率が上昇すると、単純な人数換算では適正配置を判断できなくなります。たとえば「患者数は変わらないのに業務が重い」という状況は、高齢化が進む地域では日常的に発生します。私は実務で、午前診と午後診で業務負荷が極端に異なるケースを多く見てきました。高齢者の受診が午前に集中する地域では、午前だけ短時間パートを増員するなど、変動に応じたシフト設計が効果的でした。固定的なシフトでは現場負担を吸収しきれず、結果として離職や人間関係の悪化につながります。
六つ目は、教育体制の強化です。高齢患者対応には特有のコミュニケーション技術や観察力が求められます。スタッフ間のスキル差があると、負担が熟練者に偏りがちです。短時間で実践できる院内研修を定期化し、チェックポイントを共有することは、負担分散に直結します。実務では、「高齢患者対応マニュアルを作ったが活用されていない」という相談もよくあります。マニュアルは作るだけでは機能せず、現場で使えるレベルに落とし込む必要があります。
最後に、メンタル面のケアです。高齢患者対応が続くと、スタッフは「気疲れ」を起こしやすく、感情労働の影響が大きくなります。面談制度や休憩の確保、困り事を共有できる仕組みがあるかどうかは、離職率に直結する問題です。私は、月1回の短時間ミーティングだけでも職場の空気が改善した例を見てきました。医療現場の業務密度は高く、意識的にケア体制を作らなければ不調者が出るリスクがあります。
高齢患者比率の増加は避けられない構造変化であり、個々のスタッフの努力だけでは対応しきれない領域です。業務フローの整理、人員配置の見直し、教育強化、環境改善など、労務管理の視点から総合的に対応することで、現場負担を可視化し、離職率の低下やサービス品質の維持につながります。医療機関としての持続可能性を確保するためには、経営と労務を一体で考える視点が求められます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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