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内科特有の電話対応過多による
メンタル負荷対策

内科クリニックは、他科に比べて電話本数が多い傾向が明確です。慢性疾患フォロー、薬の問い合わせ、症状相談、定期予約変更、家族からの確認連絡など、診療以外の細かなコミュニケーションが必然的に増える構造があります。表面的には「事務が電話を取っているだけ」に見えても、その裏では判断負荷・心理的負担・時間圧迫が積み重なり、スタッフのメンタルダメージにつながる場面を多く見てきました。

私は社労士として、多くの内科クリニックから「電話の多さでスタッフが疲弊している」「新人がまず電話対応で辞めてしまう」といった相談を受けます。電話対応は“見えない労働”でありながら、“最も評価されにくい労働”でもあるため、ここに明確なマネジメントを入れない限り、離職や職場の空気悪化につながります。

以下では、内科特有の構造を踏まえた上で、現場負荷を軽減する労務管理の視点を整理します。

 

■電話対応過多が起こる内科特有の構造

内科は生活習慣病患者が多く、受診頻度が高い層が一定数存在します。これにより予約変更や薬の相談が日常化し、電話が診療時間を跨いで続きます。また、家族・ヘルパー・訪問看護など多職種からの連絡も多いため、同時多発的に入電が発生する構造になっています。

さらに、コロナ以降は発熱外来対応の増加で電話の本数が一段と増え、受付スタッフが“常時コールセンター化”している案件もありました。スタッフ自身が「電話に追われて仕事が進まない」ストレスを抱え、感情労働が蓄積しやすい状態が続きます。

こうした背景を把握した上で、院内全体で負荷分散の仕組みを構築することが不可欠です。

 

■負荷を見える化することが最初の一歩

電話対応過多のクリニックほど「どの時間帯に、どれくらいの電話が来ているか」を把握していません。まず行うべきは定量化です。

・時間帯別の入電本数
・折り返し対応に要する時間
・電話起因の作業中断の回数
・応対カテゴリー(予約変更、症状相談、薬など)

これらを1〜2週間可視化すると、スタッフの体感ではなくデータに基づいた対策が打てます。私は労務顧問として、クリニックにシートを提供し、スタッフの心理的負担がどこから来ているのかを院長と共有するプロセスをよく設けています。

見える化は「負荷の正当な評価」につながり、スタッフの納得感を高めます。

 

■電話内容の“医療的判断”と“事務的判断”を明確に区分

電話対応の負荷が高くなる大きな要因の一つは、「判断の線引きが曖昧」なことです。

内科では、
・症状相談
・薬の副作用質問
・受診の必要性判断
など、医療的判断を要する内容が電話で投げ込まれるケースが多く、本来は看護師・医師が対応すべき内容まで受付が受けてしまう状況が頻発します。

この状態は、受付スタッフに過剰な心理的責任を負わせ、ミス発生時には「何で判断したのか」と責められる構造を生みます。

したがって、就業規則や業務マニュアルの中に以下の区分を設けることが重要です。

・受付が判断してよい内容
・看護師に必ず取り次ぐ内容
・医師でなければ判断できない内容
・折り返し対応に切り替える基準

労務管理の観点では、責任範囲の明確化はメンタルヘルス対策として極めて効果的です。境界線を曖昧にしたままでは、責任の押し付け・感情の摩擦・離職リスクが消えません。

 

■電話の「即時対応文化」を見直す

内科クリニックには、長年の慣習として「電話はすぐ出るべき」という文化が根強く残っています。しかし、他業界では“即時対応”はすでに見直されており、医療でも同様にアップデートが必要です。

具体的には、
・留守電・IVRで緊急性の低い内容は誘導
・折り返し対応のルール化
・時間帯による受付制限
・Web予約・Web問診の徹底

といった対策が有効です。

院長が「電話を減らす方向でマネジメントする」と明言するだけで、スタッフの心理負担は大きく軽減します。医科特有の“長年の習慣”を変えるのは院長の意思表示が鍵です。

 

■看護師・医師との連携を強化し受付の孤立を防ぐ

電話対応の負荷を受付だけに押し付けてしまうと、スタッフ間の関係が悪化します。とくに内科は多職種連携が多いため、受付が孤立しやすい構造があります。

私は顧問先で以下の対策を導入し、効果を確認しています。

・電話内容の共有ミーティングを月1回設定
・折り返し体制を看護師と分担
・医師に“電話判断リスト”を作成してもらう
・受付が困ったときの相談窓口を明確化

この仕組みが整っていないと、受付が「何でも自分で抱え込む」状態になり、心理的摩耗が加速します。

 

■電話対応の評価制度を整備する

電話対応は非常に専門性が高い業務ですが、多くのクリニックでは評価基準が曖昧なままです。

・応対品質
・判断の正確性
・折り返しの効率
・患者とのトラブル回避能力

これらは本来、評価項目として明確に設定すべきスキルです。

「見えない仕事を評価する」ことは、離職防止と職場の安定に直結します。社労士として評価制度をつくるとき、電話対応スキルを職能等級にしっかり組み込むことは内科では必須だと感じています。

 

■最終的なメンタル対策は「業務の標準化」と「負荷分散」

電話対応過多は、
・業務分担の偏り
・判断基準の曖昧さ
・院長の方針不在
・アナログ運用の残存
といった複合的要因で発生します。

だからこそ、単なる「スタッフの頑張り」では解決しません。

労務管理として取り組むべきは、
・業務の標準化
・判断基準の整備
・ICT活用による電話削減
・組織全体での負荷分散
の4点です。

私は顧問先でこれらを整備した結果、電話本数が30〜40%減り、受付の離職率がゼロになった例もあります。内科特有の構造を踏まえて対策を打つことで、確実に職場は改善できます。

 

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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