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受付時間
医療機関の受付は、患者・家族の不安や焦りが最も直接ぶつかりやすい部門であり、クレームの発生頻度が他職種に比べて高い傾向があります。特に小児科、内科、整形外科などは季節変動や混雑の影響を受けやすく、受付スタッフの心理的負担は相当なものです。社労士として現場相談を受ける中でも、クレームによる離職やメンタル不調は毎年必ず相談に上がるテーマであり、経営側が体系的に予防策を講じる必要があります。
本稿では、クレーム傾向を整理しながら、受付スタッフの心理的安全性を確保するための労務管理手法を解説します。
段落1 医療受付に特有のクレーム傾向の把握
医療機関に寄せられるクレームは、大きく以下の四つに分類できます。
①待ち時間に関する不満
②説明不足・伝達ミスへの指摘
③ルール遵守に対する反発(マスク・予約制・会計)
④感情的・人格的な攻撃
特に④に該当するケースは、スタッフの心理的ダメージが強く、蓄積すると離職率に直結します。私が支援したクリニックでも、月に数件の「暴言型クレーム」が続いた結果、受付スタッフが交替で体調不良を訴えたケースがありました。院長としては「そんなにひどいのか」と驚かれることが多く、受付と院長の間に“温度差”が生まれていることが根本原因の一つでした。
段落2 心理的安全性を損なう要因
受付スタッフが心理的安全性を失う要因には以下があります。
・理不尽な要求に対して反論できない体制
・院長・看護師からのフォロー不足
・クレーム発生時の判断基準が不明確
・孤立した受付環境(ワンオペ受付など)
・受付ルールの属人化
特に「判断基準の不明確さ」は医療機関で非常に多い問題です。ルールが曖昧なままスタッフが患者と交渉を行うと、負担は倍増します。社労士として院内ルール策定支援を行う際、受付スタッフのヒアリングを行うと、「院長と看護師で言うことが違う」「以前と対応方針が変わったのに共有されていない」という声は必ず出てきます。
段落3 クレーム傾向別の対応基準づくり
心理的安全性確保の最優先策は、クレームの種類ごとに“明確な対応基準”を作成することです。
①待ち時間系
・受付段階で想定待ち時間を必ず案内
・急患枠や医師判断による順番変更の基準を周知
・電子表示やアナウンスで情報を可視化
②説明不足系
・説明文のテンプレート化、案内カードの常備
・新人スタッフは「説明ロールプレイ研修」を義務化
・複雑な説明は看護師へエスカレーション
③ルール遵守系
・院内ルール(予約制、マスク、同伴制限)を掲示物で統一
・ルール変更時は受付判断に委ねず法人で正式通知
・現場裁量の幅を狭くすることで不毛な押し問答を防止
④暴言・威圧系
・即座に「対応を一時中断」できるルールを設置
・録音・防犯カメラなどの抑止策
・スタッフが席を離れられる“退避手順”を明文化
・場合により院長対応へ切り替えるフローを設定
特に④については、過去に暴言を受けた受付スタッフから「対応した私が悪いのかと思ってしまった」という相談を受けたことがあります。心理的安全性の確保には、本人の責任ではないことを明確に位置づけるルールづくりが不可欠です。
段落4 心理的安全性を支える体制整備
体制整備には以下の四つが重要となります。
①エスカレーションラインの一本化
「受付→看護師→院長」なのか、「受付→事務長→院長」なのか、経路を固定し曖昧さを排除します。
②クレーム日報と週次ミーティング
受付スタッフが一人で抱え込まない仕組みです。
私が支援したクリニックでは、日報に「感情面の疲労」も記載する欄を作ったことで、早期フォローが可能になりました。
③一人受付を避ける勤務シフト
ワンオペ受付はクレーム対応のリスクが跳ね上がるため、繁忙期は最低二人体制を原則とします。
④面談によるメンタルチェック
受付スタッフは“我慢しがち”なタイプが多いため、定期面談を通じてフォローすることが有効です。
段落5 教育研修とロールプレイの強化
心理的安全性は単なるメンタル問題ではなく、スキル不足から生まれる不安が大きく関係します。
そのため、研修は以下の三段階で設計することが望ましいです。
①基礎対応(敬語・受付導線・初期説明)
②クレーム抑止スキル(予防的説明の仕方)
③緊急対応(暴言・困難ケースの中断手順)
私自身、研修に立ち会う際は、実際に過去のクレーム例を受付スタッフに読み上げてもらい、返答を一緒に作成する方法を取ります。このプロセスが非常に効果的で、「どう言えばいいか分からなかった」不安が大きく軽減されます。
段落6 経営側のメッセージが最大の心理的安全性になる
受付スタッフの心理的安全性を高める最大の要素は、経営者からの明確なメッセージです。
「理不尽なクレームはスタッフではなく法人が対応する」という姿勢を示すだけで、現場は安心感を持てます。
私が支援したある内科クリニックでは、院長が朝礼で「暴言には受付判断で中断して良い」と伝えた翌月、離職懸念スタッフの表情が明らかに改善しました。トップメッセージは非常に大きな効果があります。
段落7 まとめ
医療受付のクレームは一定不可避ですが、心理的安全性を確保すれば離職を防ぎ、応対品質も向上します。
明確な対応基準、退避ルール、エスカレーション体制、教育研修、経営者の支援姿勢。この五点がセットで機能することで、現場の負荷は飛躍的に軽減されます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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