〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12(鹿沼駅から徒歩5分/駐車場:あり)
受付時間
リハビリ部門は、医科クリニックの中でも業務の専門性と属人性が特に高い領域です。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士それぞれが異なる専門領域を持ち、患者層・医師の方針・診療報酬の要件など、複数の要素が絡むため、役割分担が曖昧になりやすい特徴があります。私自身、整形外科や脳神経外科を併設する医療法人の労務支援をしてきた中で、リハビリ部門の運営と評価制度が十分に整備されていないことで、人間関係の摩擦や離職につながった例を多く見てきました。
以下では、医科クリニックの現場事情を踏まえながら、リハビリ部門の役割分担と評価制度設計を、労務管理の視点から整理します。
【リハビリ部門の現状課題:役割の不明確さが組織の負荷に直結する】
リハビリ部門では「担当制」と「チーム制」が混在しやすく、判断基準が不統一になりがちです。
特に、患者の要望(特定スタッフへの指名)が強い場合、業務が偏り、他のスタッフが不満を抱えやすくなります。また、診療報酬請求の正確性にも影響し、タスクの抜け漏れが医療機関全体のリスクにつながるケースもあります。
私が支援した整形外科クリニックでは、役割を明文化していなかったため、評価基準が属人的になり、院長の感覚に頼った昇給が常態化していました。結果として、若手スタッフが不信感を抱き、離職が続いたことをきっかけに制度設計を全面的に見直すことになりました。
【役割分担を明確化する際の実務的なステップ】
リハビリ部門の役割分担は次の3ステップで整理するのが実務的です。
業務棚卸し
リハビリ室運用、カルテ入力、初回評価、フィードバック、報告書作成、物品管理、患者説明など、業務を細分化して一覧化します。
特に、施設基準に関わる業務(計画書、報告書、リハビリ実施記録)は明確化が必須です。
業務ごとの「責任の所在」と「判断権限」を設定
例:初回評価はPT/OT/STの資格者が担当、予約調整は医療事務が主担当、など。
ここを曖昧にすると、スタッフの役割認識が崩れ、残業・トラブルの主要因になります。
チームとしての連携ルールを文書化
休憩や患者対応の交代基準、急患対応時の優先順位、患者クレーム発生時の指揮系統を明確にします。
リハビリ部門は現場判断が多いため、このルール化が効果的に機能します。
【公平で納得性のある評価制度の設計ポイント】
評価制度を作る際は、専門職としての能力と組織貢献のバランスを取ることが重要です。以下の4分類で評価軸を設定すると、クリニック規模に関わらず運用しやすくなります。
専門スキル評価
治療技術、医学的知識、計画書作成の質、成果指標(疼痛改善、ADL改善など)。
数値化できる指標は積極的に取り入れます。
業務遂行評価
カルテの記載精度、報連相の質、予約管理のルール遵守、診療報酬業務のミス率など。
医療機関ではヒューマンエラー対策が評価軸に直結します。
チーム行動評価
協働性、若手育成、院内コミュニケーションなど。
実際、離職率の多くは技術ではなくチーム関係の悪化で起こります。
組織貢献度評価
改善提案、安全対策、学会参加、外部研修など。
向上心を持つスタッフを正当に評価できます。
これらの軸は、医科クリニックならではの「医師との連携」「カルテ記載」「診療報酬要件」の3要素と密接に関連するため、一般企業向けの評価制度を流用してもフィットしません。制度を医療版に最適化することが欠かせません。
【評価制度導入の実務:運用定着のための注意点】
制度そのものを整えても、説明が不透明だと不信感が生まれます。
私が医療法人の支援で実感しているのは、制度導入時は院長よりも「中堅リハビリスタッフ」の理解を得ることが成功のポイントになるということです。評価面談の際、評価者の認識と現場の認識にズレがあると、制度は形骸化していきます。
そのため、以下の運用手順が効果的です。
・導入前説明会(役割分担と評価項目の理由を明確化)
・評価シートのサンプル提示(具体例を交えた運用説明)
・半年後レビュー(制度運用のズレ修正)
・フィードバック面談の標準化(評価者ごとのバラつきを抑える)
実際に伴走支援をしたクリニックでは、この仕組みにより「評価が見える化されたことで仕事への集中度が高まった」とスタッフからの肯定意見が増えました。
【労務管理として見落とせない法的視点】
・評価制度は就業規則との整合性が必須
・昇給・降給の基準が曖昧だとトラブルの温床
・専門職の自由裁量に依存しすぎると過重労働につながる
・指名患者比率の扱いは平等原則との調整が必要
これらは労務トラブルの典型例であり、医療機関特有の課題です。制度設計段階から労務専門家が関与することで、後々の紛争リスクを大きく抑えることができます。
【まとめ:リハビリ部門は「制度化」するだけで組織が安定する】
リハビリ部門は専門性が高く、スタッフ間で価値観の違いが顕著に出る領域です。だからこそ、役割分担と評価制度を体系化し、運用まで見据えた仕組みづくりが必要です。
私自身の現場支援では、制度導入を機にスタッフ同士の不満が解消され、離職が減少した事例を多数見ています。制度は「縛り」ではなく「安心を生むルール」であり、医療機関の持続的な成長につながる基盤になります。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
お電話でのお問合せ・相談予約
<受付時間>
9:00~17:00
※土曜日・日曜日・祝日は除く
フォームは24時間受付中です。お気軽にご連絡ください。