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リハビリ部門では、理学療法士や作業療法士の業務補助としてリハ助手を配置するケースが増えている。しかし、医療職と非医療職の線引きが曖昧なまま運用すると、医療法上の無資格業務に該当するリスクや、事故発生時の責任所在の不明確さから労務トラブルへ発展する可能性がある。私が医科クリニックの労務顧問として関与する中でも、「どこまで任せてよいのか」「助手の教育が追いつかない」といった相談が特に多い領域である。本稿では、実務で発生しやすい問題点と、事前に整備すべき仕組みを具体的に解説する。
【リハ助手の法的位置付けと無資格業務の境界】
リハ助手は医療従事者ではなく、あくまで補助的役割にとどまる。医療法および各士法では、理学療法士や作業療法士が行うべき専門的判断や運動負荷の設定、特定の徒手療法などは無資格者が行うことは認められていない。実際、クリニックの現場を見ると「機器の設定操作」「軽度の誘導」「準備・後片付け」などを助手が担うことは一般的だが、患者への個別指導やプログラム調整などに踏み込むケースも散見される。この状態は、万一の事故の際に法的責任を問われる可能性が高く、また監査時の指摘対象にもなり得る。
【業務範囲の明文化が最重要】
私が顧問先に必ずお願いしているのは、リハ助手の業務範囲を文書化し、法人内の規程として定めることである。具体的には以下を区分する。
・必ず担当者(PT・OT)が行う業務
・助手が行ってよい業務
・条件付きで可能な業務(担当者の立会い、事前指示が必要など)
この三層構造があるだけで、スタッフ教育は格段に効率化する。また、業務の逸脱を防ぎ、責任所在が明確になるため、労災・事故時の対応もスムーズになる。私は規程作成時、実際の動線や患者数、リハ室の構造をヒアリングしながら、現場の実態に即した文面にすることを意識している。
【教育体系の整備と指揮命令系統】
リハ助手の業務は医療安全と密接に関わるため、教育体系の整備が不可欠である。新人研修に加え、機器ごとの操作研修、患者対応研修、緊急時の報告フローなどをセットで設計することが重要だ。私が複数のクリニックで見てきたトラブルの典型例は、指揮命令系統が曖昧なケースである。担当療法士と看護師、あるいは院長から異なる指示が出て混乱し、助手が独断で行動してしまった結果、業務逸脱が生じるケースがある。対策として、指示権者をPT・OTに一本化し、助手はその補助として明確な上下関係のもとに動く体制が適切である。
【医療安全とヒヤリハット管理】
助手が関与する場では、転倒事故や機器設定ミスが起こりやすい。実際、私の顧問先でも、患者移動時のふらつきに助手が単独で対応しようとしてヒヤリとした事例があり、以降は「移乗介助はPT・OTのみ」「助手は近接補助のみ」にルールを整理した。リスクの芽は現場にあるため、月次ミーティングでヒヤリハットを共有する場を作ることが極めて有効である。
【労務管理としてのリスク】
無資格業務に該当する行為を助手に行わせていた場合、事故発生時の損害賠償リスクだけでなく、「不適切な指揮命令」として使用者責任が問われる。さらに、助手本人も不安を抱えながら業務に従事することとなり、離職リスクが高まる。実務では、職務内容を明確にし、評価制度にも「担当者補助としての遂行度」「医療安全遵守度」を入れることで定着率が改善した例を数多く見てきた。
【人員配置と業務効率化】
リハ助手を適切に活用できれば、PT・OTが専門性の高い業務に集中でき、生産性が大きく向上する。ルーティンワークや周辺業務を助手に任せることで、専門職の時間を最大化することができる。顧問先の整形外科では、助手の配置により療法士の単位取得数が安定し、残業時間も大幅に減少した。この成功の背景には「範囲の明確化」と「指示系統の一本化」があったことは言うまでもない。
【まとめ】
リハ助手の活用は、医療機関にとって非常に有効な施策である一方、業務範囲や教育体制を曖昧にしたままでは法的リスクが大きくなる。無資格業務の防止、業務マニュアルの整備、指揮命令系統の統一、ヒヤリハット管理の仕組みづくりなど、複合的な対応が求められる。社労士として現場に入って感じるのは、「境界の曖昧さ」が最もトラブルを生むという点である。今一度、業務の棚卸しを行い、安全かつ効率的な運用体制を構築していただきたい。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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