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耳鼻咽喉科は、季節的な繁忙や突発的な患者集中が起こりやすく、診療スピードが上がるほど、医師からスタッフへの指示が口頭依存となり、伝達漏れ・取り違え・確認不足などのヒューマンエラーが増える傾向がある。これは患者安全にも直結し、職員間の心理的負荷を高める典型的な労務リスクの一つである。
私が労務相談に入る耳鼻咽喉科クリニックでも、医師が短時間で多数の処置・検査指示を出す状況下では、「指示したつもり」「聞いたつもり」のズレが頻発しやすい。特に吸入やネブライザー、聴力検査、内視鏡準備など、看護師・医療事務・リハビリ助手など複数職種が連動するケースでは、伝達ルートの設計自体がクリニックの安全文化を左右する。
以下では、耳鼻咽喉科特有の診療フローを踏まえた指示伝達ミス防止策と、持続的に運用できる教育体系について具体的に解説する。
【高速診療におけるミスが生じる構造】
高速診療では、医師が処置室・診察室を往復しながら、短い時間で次々と指示を出していく。口頭依存の指示は、周囲の騒音や患者の動きに左右されやすく、特に花粉症ピークや感染症流行時などはスタッフも視覚・聴覚負荷が大きい。このため、指示の発信者と受信者の認識に乖離が生まれやすく、伝達の属人化によって「いつもこの人に伝える」「このスタッフは処置室で拾うはず」という曖昧なルールが温存される。
私が介入したケースでも、繁忙時ほどスタッフ間の「暗黙の役割」で処理が進むため、新人が入り込めず、誤解や抜け漏れが発生するという構造を確認した。これは研修体系というより、業務設計に問題がある場合が多い。
【指示伝達の標準ルートを固定化する】
まず必要なのは、医師がどの指示を、どのルートで、誰に伝えるかを明文化することである。
例えば以下のような整理が有効である。
・検査(聴力・ティンパノ・内視鏡)
→ 看護師が一次受領し、検査担当へ連携
・吸入・ネブライザー
→ 医療事務または看護助手が受領し、患者案内と機器稼働
・薬の変更・追加
→ 看護師のみ受領(医療事務への伝達は看護師経由)
・紹介状・書類作成
→ 医療事務が受領し、医師確認のタイミングを指定管理
このような業務線引きを設けると、混雑時も「誰が拾うのか」が明確になり、属人的な判断が排除される。
【チェックバック方式の導入】
航空業界でも採られる「指示を復唱し、発信者が確認する方式」は、医療現場でも非常に有効である。耳鼻咽喉科の場合、特に処置回数が多いため、「検査関係の指示」「処置関係の指示」「薬の変更」の3分類をあらかじめ定義し、復唱時も分類名を添えるとミスが減る。
例:
医師「この患者さん、ネブライザー追加ね」
スタッフ「ネブライザー追加、処置指示として受けました」
私が支援したクリニックでは、この方式導入により誤指示・二重処置が約3割減ったという報告を受けている。
【高速診療向けの「視覚情報化」】
耳鼻咽喉科は患者が非常に動く診療科であるため、視覚情報の整備は欠かせない。
・指示ボード(処置/検査の色分け)
・診察室前パネルでの検査順番管理
・スタッフ端末でのリアルタイム共有
・吸入機器のステータスを一目で把握できるマグネット表示
視覚情報化を進めることで、忙しい時間帯でも「指示を探す負担」が減り、スタッフのメンタル負荷軽減につながる。
【新人教育を段階化する】
耳鼻咽喉科は高い専門性を要する工程が多く、新人が全体フローを理解するまで時間がかかる。このため、段階別教育体系の構築が非常に重要である。
段階1:患者誘導・吸入案内など低リスク業務
段階2:検査準備・医師補助の基礎
段階3:医師指示の一次受領
段階4:検査結果のフィードバック・記録補助
各段階でチェックリストを用意し、合格した段階の業務のみを担当させる方式が適している。私の支援先では、この段階式を導入したことで新人の離職率が低下し、業務習熟のムラも減少した。
【高速診療でも崩れない「役割分担」と「指揮命令系統」】
高速診療の現場では、どうしてもスタッフが医師の背中を追うような動きになり、事務が看護業務、看護が事務業務に入り込むなど、役割逸脱が発生しやすい。これは法令遵守の観点でも無視できない。
・医療行為の補助範囲
・医療事務が担うべき患者管理領域
・看護師が従うべき指揮命令ルート
これらを定義しないと、指導差が生まれ、職場トラブルに発展しやすい。特に耳鼻咽喉科は処置数が多く、誰が何を担当するかを固定しなければ混乱の温床になる。
【研修体系の年次更新】
高速診療を支える教育は、一度作って終わりではなく、毎年の繁忙期前に更新すべきである。
・前年に起きたヒヤリハットの分析
・指示ミスを発生させた要因の分類
・新人から提出された改善案の吸い上げ
・医師の診療スタイルの変化や機器更新を反映
研修資料はPDF化し、感染症流行でのスタッフ欠勤にも耐えられるようオンラインで共有すると、教育の標準化が進む。
【まとめ】
耳鼻咽喉科の高速診療は、スピードと安全性の両立が重要である。伝達ルートの明文化、復唱方式の導入、視覚化ツールの整備、段階別教育体系の構築により、属人化を排除し、クリニック全体の診療品質を安定させることができる。労務管理の視点でも、これらは法令順守・リスク低減に直結する重要な取り組みである。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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