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精神科・心療内科の領域では、患者特性や症状の変動、個別性の高いコミュニケーションの必要性から、オンライン診療の導入は対面診療以上に「情報伝達精度」と「役割明確化」が重要になります。近年、オンライン診療の需要増加に伴い、私が労務顧問として関与している医療機関でも「導入後の業務が混乱した」「電話対応が過剰になった」「予約枠が逼迫した」などの声が寄せられます。これは、オンライン診療に“新しい業務フローを付け足しただけ”の状態となり、役割の線引きが整理されていないことが主な原因です。ここでは、業務分担の見直しと労務リスクの最小化を中心に、実務的な視点で整理していきます。
【オンライン診療導入に伴う業務の増加と再整理の必要性】
オンライン診療は便利である一方、院内のオペレーションには追加的なタスクが発生します。例えば精神科・心療内科では、以下のような新規業務が生まれやすい状況があります。
・本人確認や保険情報のデジタル登録サポート
・オンライン診療アプリの操作説明
・通信トラブル時の代替案案内
・事前問診や状態確認の追加ヒアリング
・電子処方箋の手続きや薬局との連携強化
これらは従来の受付業務に上乗せされることが多いため、受付スタッフに過度な負荷が集中しやすくなります。私が関与した事例では、導入3カ月後には受付の残業が常態化し、メンタル不調者が出たケースもありました。これは、オンライン診療を「新規制度」ではなく「業務改革の契機」と捉えて全体設計を行わなかったことが要因です。
【役割分担の明確化:医師・看護師・医療事務の境界線】
オンライン診療の導入では、医師・看護師・医療事務が担う業務の線引きを再設計することが不可欠です。
医師
・オンライン診療の実施、診断、処方判断
・通信環境が不安定な患者への中止判断
・トリアージ基準の設定
看護師
・事前問診の確認と必要情報の整理
・症状急変が懸念される患者の対面誘導
・服薬状況確認やフォローコール
医療事務
・予約管理、事前案内、アプリ操作補助
・オンライン資格確認の手順案内
・電子処方箋の薬局送付、支払方法案内
この境界線が曖昧なまま導入すると、看護師が事務作業を抱えたり、医療事務が医療判断に近い領域まで踏み込んだりと、法令遵守の面でもリスクが発生します。特に精神科・心療内科は「情報収集」の精度が診療の質に直結するため、事前問診の整理をどこまで看護師が担い、どこから医師へ引き継ぐのか、運用ルールを文書化する必要があります。
【受付業務の再分配とシステム活用】
オンライン診療の増加により、受付スタッフに集中しやすいのが「操作案内」と「電話対応」です。精神科では不安傾向の強い患者が多いため、接続方法やログイン手順の確認など、通常より丁寧な説明が求められる場合があります。
負担軽減のポイントは以下です。
・操作説明マニュアルのPDF化
・予約完了時に自動送信される説明文の整備
・FAQページの作成
・オンライン専用の問い合わせ時間を設定
・ローテーション制での専門担当者配置
私は実際の顧問先で、操作案内を標準化しただけで受付の電話量が30%減少した例も経験しています。院内の“属人化した説明”をなくし、誰が対応しても同じクオリティを提供できる仕組みが効果的です。
【電子処方箋と薬局連携における業務最適化】
精神科・心療内科のオンライン診療で重要になるのが「電子処方箋」の取り扱いです。電子化により患者の利便性は高まりますが、薬局からの問い合わせが増えたり、処方内容の照合作業の負担が増えるケースがあります。
対策としては以下が有効です。
・薬局との連携ルールを定期的に確認する
・問い合わせ対応の担当者を固定せず共有化する
・処方内容の転記作業を行わない運用を徹底する
・誤送信防止のためチェックリストを整備する
特に精神科の処方は多剤併用や用量調整が多く、薬局との連携ミスが患者に大きな影響を与えるため、スタッフ教育の強化が欠かせません。
【オンライン診療専用のシフト設計と負荷分散】
オンライン診療の予約枠が増えると、看護師や医療事務の負担が時間帯によって偏ることがあります。精神科では診療後の相談やフォローコールが長引きがちで、オンライン枠の直後に対面予約を詰めるとスタッフが休憩を確保できない場合もあります。
・オンライン診療枠の前後にバッファを設定
・看護師による事前確認の時間をシフトに組み込む
・スタッフの担当比率を週単位で調整
顧問先でも、オンライン専任担当を設けるのではなく、全員がある程度対応できるローテーション方式にしたことで、不公平感が減り、離職リスクが著しく低下した例があります。
【業務プロセス可視化と就業規則・マニュアルの整備】
オンライン診療は業務フローが複雑になるため、プロセスの可視化が必須です。
私が現場でよく行うのは次の手順です。
・業務一覧を書き出す
・担当者を明確化する
・判断基準と例外対応を文書化する
・院長、看護師長、事務長の三者で最終確認する
その上で、就業規則の「職務分掌規定」や「指揮命令系統図」に反映することで、トラブルが生じた際の責任の所在が明確になり、パワハラ・指示系統混乱などのリスクも防げます。
【まとめ】
オンライン診療導入は単なるデジタル化ではなく、院内業務全体を見直す絶好の機会です。精神科・心療内科の特性を踏まえた業務分担の再構築により、スタッフの負担軽減と診療の質向上が両立できます。労務管理の視点では、職務分掌の明確化、マニュアル整備、シフト再設計が特に重要となります。オンライン診療は“便利な制度”ではなく“全体最適化のプロジェクト”として運用することが成功への鍵です。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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