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眼科クリニックでは、診療部門とコンタクトレンズ販売部門が併設されているケースが多く、現場の動線やスタッフの役割分担が複雑化しやすい。特に販売部門は患者との接点が診察後に集中し、診療側と販売側の連携がわずかに乱れるだけで、待ち時間の増加、案内ミス、さらにはクレーム発生に直結する。私は労務相談の中で、医師と販売スタッフの認識のずれ、役割説明の不足、情報共有の欠落から小さなトラブルが雪だるま式に拡大した事例を数多く見てきた。
本稿では、眼科特有の診療フローと販売業務の結節点を踏まえ、連携不全を未然に防ぐ実務的な労務管理手法を整理していく。
【診療部門と販売部門の「境界」が曖昧になりやすい構造】
眼科では、診察前の検査(視力、眼圧、角膜評価など)から診察、処方、販売へと連続する流れが構築されている。特にコンタクト販売部門は「医療行為ではないが医療と連続している」という特殊な立ち位置であり、スタッフ間の感覚差が生まれやすい。
例えば、
・販売スタッフが診察の混雑状況を把握できず、案内が遅れる。
・医師の処方方針が伝わらず、在庫のないレンズを案内してしまう。
・販売側の接客基準と院内の接遇基準が一致していない。
といった細かいズレが重なり、最終的に「職種間の不信感」や「スタッフ間の温度差」として表面化する。
こうした連携不全の背景には、職務範囲の曖昧さ、情報伝達の属人化、部門ごとのルール差がある。労務管理としては、まずこの構造的な問題に手を付ける必要がある。
【役割分担の明文化と標準化】
最も効果が高いのは、診療部門と販売部門の「境界」を就業規則や業務手順書で明確にすることだ。特に以下のポイントは重要である。
・誰がどの段階で患者案内を行うのか
・販売部門が確認すべき処方情報の範囲
・検査スタッフが販売部門に共有すべき内容
・混雑時の優先順位ルール
私が支援したある眼科では、販売スタッフが「診察の呼び込み補助」に入る運用が曖昧で、販売側は「手伝う前提」、診療側は「余計な動線ができるので入らないでほしい」という相反する意見が存在した。ヒアリングを行うと、お互いが悪気なく役割解釈が異なっていただけで、文書化と業務整理により数週間で解消した。
境界が曖昧なままでは人間関係が悪化しやすいため、文書化は必須である。
【情報連携のルール化とツール導入】
販売部門では、在庫状況、メーカーの納期遅延、度数変更に関する注意点など、診療側に定期的に共有すべき情報が多い。これらが非公式の口頭連絡に依存すると、必ず漏れが発生する。
効果的な対策は以下の通りである。
・日次または週次の「申し送り事項」をデジタルで統一
・在庫情報をクラウド管理し、診療側も閲覧可能にする
・度数や種類に関する制限を医師と販売側で事前確認
・新人スタッフ向けに、情報伝達フローを必ず教育
実際、販売部門を外注化しているクリニックでは、外部スタッフと院内スタッフの情報共有が最大のリスクとなる。チャットツールや共有シートの導入は必須であり、情報の透明化がそのままトラブル減少につながる。
【接遇基準の統一と教育研修】
診療と販売では接客の基準が微妙に異なり、そこから患者満足度の落差が生まれる。特にコンタクト購入者は若年層が多く、説明の丁寧さやスピード感の違いに敏感である。
そのため、
・接遇研修を診療・販売の合同で実施
・新人導入研修に販売部門の業務理解を組み込む
・患者動線ごとの「推奨声掛け」を文書化
・クレーム発生時の報告ルートを統一
など、同じ基準を共有する仕組みが必要である。
私の顧問先の眼科では、販売スタッフが丁寧すぎる説明を行い、結果として診療全体の回転が遅くなるという課題があった。接遇の「質」と「スピード」の適正バランスを研修で共有し、そこから一気に効率化したケースもある。
【販売部門への人事制度設計の再考】
販売部門が「医療職ではない」という理由で処遇や評価制度が適切に整備されていないケースも多い。これは離職や不満につながり、連携不全の温床となる。
以下のような制度整備が効果的である。
・販売スタッフの技能評価(商品知識、説明力、顧客対応)
・診療側との協働姿勢を評価項目に追加
・教育係の指名と手当設定
・繁忙期の手当やインセンティブ制度
組織が販売部門を「付属的な部門」として扱うと、当事者意識が低下し、診療との連携が崩れやすくなる。適切な評価制度は、部門間の協力姿勢の向上に直結する。
【混雑時の連携ルールと緊急対応】
眼科の繁忙日は明確で、土日・祝前日・学校行事後・季節イベント前はコンタクト購入が集中する。混雑時ほど連携が乱れ、待ち時間が増加し、クレームが増える。
対策としては以下が有効だ。
・混雑日用の特別動線マニュアル
・診療と販売の位置関係を考慮した配置転換
・販売スタッフが診察状況を常に把握できる仕組み
・急患かつコンタクト購入者の優先順位ルール
こうした特別運用は「その場しのぎの対応」でスタッフ間が疲弊する原因になるため、事前に計画されたルールが必要になる。
【社労士として感じる最大の問題点】
現場を多数見てきた経験から言うと、眼科の診療部門とコンタクト販売部門の連携不全は、スタッフの能力不足よりも「ルールのない運用」に起因することが圧倒的に多い。
医科の中でも眼科は業務の連続性が高く、販売部門が実質的に診療フローの一部を構成する特殊性がある。だからこそ、
・職務定義
・情報共有の仕組み
・教育体系
・評価制度
が組織的に整備されていなければ、どれほど優秀なスタッフでも混乱が発生する。
労務管理の視点からは、組織構造の整備こそが最大の予防策なのである。
【まとめ】
コンタクト販売部門との連携不全は眼科特有の構造的課題であり、単なるコミュニケーション不足ではなく、組織設計・業務設計の問題として捉える必要がある。
役割分担の明確化、情報連携のルール化、接遇基準の統一、評価制度整備、混雑対応の標準化を進めることで、現場は驚くほど安定する。労務の視点を加えた業務設計は、患者満足度の向上とスタッフの心理的安全性の両立に直結する。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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