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眼科医療において、検査ミスは診断精度に直結し、患者の治療方針を大きく左右します。特に視力検査、眼圧測定、OCT撮影、視野検査など、デバイスの多さと測定工程の複雑さから、ヒューマンエラーの潜在リスクは高く、組織として「仕組み」で防ぐことが必要です。そこで重要となるのが、検査プロセスにダブルチェック制度を導入することです。単なる確認手順ではなく、安全配慮義務の観点からも、院内で標準化した運用基準に基づき構築することが求められます。
私は社労士として、眼科クリニックでの労務管理支援を行う中で、検査関連のインシデントを契機にチェック体制を再構築した事例に何度も携わってきました。ヒューマンエラーは「能力不足」ではなく「環境要因」「手順不統一」に起因することが非常に多く、ダブルチェックでは、特に「誰が、いつ、どの項目を、どの方法で」確認するかを明確化することが最も重要であると実感しています。
以下では、眼科特有の業務フローに即した、実効性のあるダブルチェック制度の構築ポイントを整理します。
【1 患者取り違え防止のための受付~検査連携の二重確認】
眼科は高齢患者が多く、同時に複数の検査を行うケースが一般的です。受付から検査室までの移動も多いため、取り違えリスクは他科より高い傾向があります。
そのため、受付番号・氏名の口頭確認に加え、検査開始前にスタッフ同士で「検査票の内容一致」「本人確認」「当日予定されている検査項目」について二重確認を行うフローを固定化することが必要です。また、電子カルテへの入力時も、別スタッフが確認する体制を設けることで、患者間のデータ混入を未然に防止できます。
【2 機器ごとの測定値の整合性チェック体制】
眼科検査は機器ごとに担当者が異なることが多く、その結果、測定値のばらつきや入力ミスが発生しやすくなります。
特に視力、眼圧、屈折値、角膜厚などは治療判断の基礎となるため、測定後すぐに別のスタッフが機器画面と電子カルテの転記内容を照合する体制が有効です。
私が支援したクリニックでは、眼圧値の入力桁を誤ったインシデントを機に、測定後60秒以内のチェックルールを導入しました。結果として再検査が減り、医師の診察効率も向上しました。
【3 視野検査・OCTなど専門性の高い検査の結果確認】
視野検査やOCTは、測定者の熟練度により画像品質が大きく変動します。ダブルチェックでは、
(1)測定者が基礎的な画像品質の基準を確認
(2)別のスタッフまたは医師が「検査のやり直し要否」を判断
という二段階構造が必要です。
これにより、診察室での再検査指示が減り、患者動線の混乱も抑制できます。また、ベテランスタッフと新任スタッフをペアにすることで教育効果も高まります。
【4 業務標準化のためのマニュアル整備と教育体系】
ダブルチェックは制度を導入するだけでは機能せず、マニュアル化と教育体系の強化が不可欠です。
ポイントは以下の通りです。
・検査項目ごとに「チェックすべき数値」「誤差許容範囲」「確認者の役割」を明記
・新人スタッフ向けにチェック項目の理解度テストを実施
・OJTだけに頼らず、年1回の院内研修で手順の再確認を実施
・インシデント事例を蓄積し、毎月のミーティングで共有する仕組みを構築
私が関わったある眼科では、インシデント共有の文化が定着したことで、スタッフが検査品質を「自分事」として捉えるようになり、ミスが明らかに減少しました。労務管理の観点からも、教育体制の明確化は労働安全衛生法上の努力義務にも適合し、組織のリスクレジリエンスを高めます。
【5 ダブルチェック導入による組織面の効果】
ダブルチェック制度は、ミス防止だけでなく、院内のコミュニケーション改善にも寄与します。
検査スタッフ同士の情報連携が密になり、医師への報告内容も精緻になるため、診察の流れが改善します。
また、スタッフが「一人で抱え込まない」仕組みとなるため、心理的安全性向上にもつながります。
私自身、制度導入後に離職率が下がった事例を複数経験しており、労務リスクの軽減にも効果があると強く実感しています。
【6 制度運用を安定させるための管理者の役割】
管理者(主任・検査技師・事務長)が重要となるポイントは次の3点です。
・チェックの実施状況を定期的にモニタリングすること
・ミスの原因を「個人の責め」ではなく「仕組みの改善」として捉える文化をつくること
・繁忙期でもチェック工程を省略しないよう、シフト設計と業務量管理を行うこと
これにより制度の形骸化を防ぎ、継続的な品質向上につながります。
【7 眼科におけるダブルチェック制度の今後】
高齢化、デバイスの高度化、診療の効率化要求が高まる中で、眼科での検査業務はますます複雑になっています。
ダブルチェック制度は、こうした変化に対応するための基盤であり、単なる確認作業ではなく、医療の質を支える組織的な安全保障です。
今後は、AI補助チェックや自動転記システムなど、デジタル技術との組み合わせにより、さらに高度な業務品質管理が可能になると考えられます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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