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泌尿器科では、診療プロセスの性質上、患者の羞恥心や身体的接触を伴う場面が多く、異性介助に関する運用は他の診療科以上に慎重な設計が求められます。適切なルールがないと、スタッフが萎縮して業務効率が落ちるだけでなく、患者側の誤解によるクレームやハラスメント認定にも直結するため、組織的な対策が必須です。社労士として医療機関の相談を受ける際も、このテーマは毎年必ず複数のクリニックから相談が寄せられます。
以下では、泌尿器科の特性に合わせ、現場運用と法的リスク管理の両面から実務的なポイントを整理していきます。
【泌尿器科で異性介助が問題化しやすい背景】
泌尿器科では、導尿、包帯交換、陰部周辺の処置、検査前後の着脱介助など、身体のプライベートゾーンに関わる介助が日常的に発生します。このため、患者の羞恥心が強く、異性スタッフが介助した場合の心理的抵抗は他科より顕著です。また、患者側の年齢層が高く、価値観の違いからスタッフへの言動がハラスメントに該当するケースも少なくありません。
一方で、泌尿器科スタッフの多くは女性であることが多く、男性患者の介助に対し「これ以上の接触は業務範囲か」「一人で対応して問題ないか」と迷うケースが現場で頻発します。この曖昧さこそがリスクであり、まずは「ルールによる明確化」が出発点となります。
【異性介助の基本原則:クリニックとして必ず定義しておくべき事項】
私が医療法人の顧問先に示している基本原則は、以下の三つです。
第一に「同性介助を基本とする」方針を明文化すること。完全な運用は難しくとも、患者説明や掲示物で明確に示すことで、誤解によるクレームを大きく減らせます。
第二に「例外的に異性介助が必要となる具体的場面」を文章化しておくこと。導尿、検査着の調整、転倒リスクへの補助など、場面ごとに明記しておくと、スタッフが迷わなくなります。
第三に「複数名対応の原則」を設定することです。異性の接触が避けられない場面では、必ずもう一名が立ち会う運用を徹底することで、リスク一般を大幅に下げることができます。
【患者への事前説明と掲示物の重要性】
異性介助に関するトラブルの多くは「事前説明の不足」に起因します。クリニック入口や更衣スペースに掲示するだけでも、患者の心理的不安は軽減されます。さらに、診察前にスタッフが「体位保持など必要な場合はスタッフがお手伝いします」と案内するだけでも、認識のギャップを埋める効果があります。
私の顧問クリニックでも、掲示物を工夫しただけで「異性が触れた」というクレームが半減した事例があり、事前周知の効果は非常に大きいと感じています。
【スタッフ保護を目的とした運用ルール】
泌尿器科では、スタッフ保護の観点も極めて重要です。以下のようなルール整備が必要です。
・ドアは完全に閉めず、二重カーテンなど視界遮断を工夫する
・着脱介助時はスタッフによる「声かけ」を徹底する
・患者の不適切発言があった場合の報告フローを定義する
・ハラスメントを受けた場合の記録様式を用意しておく
特に報告フローは、院長が把握しないまま現場が疲弊する典型領域であり、職場環境配慮義務の観点からも必須です。
【スタッフ教育:境界線の認識を揃える】
異性介助に関する教育を怠ると、スタッフごとに判断がバラバラになり、リスク管理が崩れます。教育内容としては、以下の点が重要です。
・身体接触を伴う介助では、必要最小限にとどめる
・患者に触れる前には必ず説明と確認を行う
・不快感や誤解を招く行動を避ける(沈黙しない、無表情にならない等)
・危険を感じた場合は即座に応援を呼ぶ
特に新人スタッフは「どこまでしていいのか分からない」状態に陥りやすく、その不安が誤解や事故につながります。実務の伴走教育を通じて、判断基準を共有しておくことが欠かせません。
【職場環境配慮義務とハラスメント防止措置】
泌尿器科の異性介助は、法律面では労働安全衛生法が定める「職場環境配慮義務」や、パワハラ・セクハラ防止措置義務の対象となります。特に、患者からのハラスメント(カスタマーハラスメント)への対応も企業義務とされており、院長としては「スタッフを守る仕組み」を備えておく必要があります。
私自身、患者からの不適切言動が続き、最終的に受診制限をかける判断に至ったクリニックの相談に関わったことがありますが、これも「対応記録」と「運用ルール」が整っていたからこそ、適法かつ組織的に判断できたケースでした。
【ルールを形骸化させないための定期見直し】
一度ルールを作っても、その後の運用が現場の変化に追いつかなくなるケースを多く見てきました。泌尿器科は医療機器や検査方法が変わりやすく、導線や人員構成も変化します。少なくとも年1回は、運用実態とズレがないか院長・看護師長・事務長・顧問社労士で確認する仕組みを作ることを推奨します。
【まとめ】
泌尿器科の異性介助は、患者の羞恥心・スタッフの心理的不安・ハラスメントリスクが複雑に絡む領域です。しかし、ルール化、掲示と説明、スタッフ教育、記録と報告フローの整備を進めることで、大半のリスクは低減できます。現場を守るためには、曖昧さを排除した「組織としての判断基準」が最も重要です。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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