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泌尿器科では加齢に伴う前立腺疾患や排尿障害などで受診する男性患者が多い。特に高齢層では聴力低下、認知機能の揺らぎ、羞恥心や不安からくる語気の強さなど、コミュニケーションを複雑化させる要因が重なりやすい。私が医療法人の外部相談窓口を担当した際にも、「説明を理解してもらえない」「誤解からクレーム化する」「同じ質問が繰り返される」といった相談が頻繁に寄せられた。
こうした事象は、個々のスタッフの接遇スキルだけでは吸収しきれないため、組織としての対応設計が求められる。特に泌尿器科ではデリケートな問診や生活指導を伴うため、コミュニケーション負荷は他科に比べても高くなりやすい。
【スタッフ側に蓄積するストレスの構造】
高齢男性患者とのやり取りが負荷になる主な要因は以下のとおりである。
・聞き返しが多く、対応時間が長くなる
・自己流の健康情報や生活習慣へのこだわりが強い
・プライドの高さから強めの物言いに発展することがある
・待ち時間耐性が低く、受付に不満を向けやすい
・「男性同士の方が話しやすい」という声があり女性スタッフに精神的負担が偏りやすい
労務相談で受けたケースでは、受付スタッフが「毎日同じ患者から強い調子で質問され続ける」「説明が伝わらず責められているように感じる」と訴え、欠勤や離職につながった例もあった。このように、特定患者の対応がスタッフのストレス源となる構造は、早期に組織として介入しなければ手遅れになりやすい。
【コミュニケーションストレスを軽減する仕組みづくり】
泌尿器科に適した実務的な対策を以下に整理する。
(1)説明内容の標準化と文書化
聴力・認知の個人差により口頭説明だけでは誤解が起きやすい。
・生活指導、服薬説明、検査フローを紙面化
・短文化したチェックリスト形式
・図示や大きめの文字サイズを活用
この「説明資材の標準化」は、スタッフ間の説明ばらつきを減らし、説明のストレスを大幅に軽減する効果がある。私は複数の泌尿器科で資料整備を支援してきたが、標準化後はスタッフから「同じ説明を繰り返す精神的負担が減った」という声が多く聞かれた。
(2)男性スタッフ・シニアスタッフの配置最適化
高齢男性患者は同性スタッフに相談しやすい傾向がある。また、一定の年齢層のスタッフがいるだけで患者の態度が穏やかになるケースもある。
・問診場面で男性スタッフを一部配置する
・シニアスタッフによる補助的クッション対応
・新人一人に負荷が集中しないようローテーションの設計
人員構成の改善は即効性があるため、労務上のストレス軽減策として最も効果の高い取り組みのひとつである。
(3)対応困難ケースのエスカレーションルール
「一定時間を超えたら医師または事務長に引き継ぐ」など、明確な基準を決めておくことで、スタッフが抱え込みにくくなる。
・5分以上の押し問答が発生したら即エスカレーション
・否定や叱責が続く際の引き継ぎ基準
・暴言・威圧行為の記録フロー(安全配慮義務対応)
労務紛争の現場では、エスカレーションルールが曖昧なまま放置され、結果的にスタッフの心的負担が限界に達してから顕在化するケースが多い。早い段階で制度を整えておくことが重要である。
(4)「聞こえの配慮」を前提とした接遇研修
聴力低下は高齢男性では典型的であり、怒っているように聞こえる発言も実は「聞こえないことへの不安」が背景にあることが多い。
・話速を落とす
・語尾を明瞭に
・正面から伝える
・必要に応じ筆談ツールを使用
接遇の質向上だけでなく、スタッフの心理的負担を減らす効果も大きい。
【スタッフ保護と労務リスク回避の視点】
高齢男性患者とのやり取りが原因で精神的負担が蓄積し、メンタル不調や離職につながる場合、事業者側の安全配慮義務が問われることもあり得る。特に、継続的な暴言・威圧的行為が認められる場合は、受診制限や警告書の発行を検討する段階に移ることもある。
私が担当した例では、スタッフが「毎回怒鳴られる」と相談したものの院内で十分に記録が残されておらず、判断材料が不足して対応が遅れたケースがあった。以降、その医療法人では以下の取り組みを導入した。
・患者トラブル記録の標準フォーマット化
・事実経過の客観的記録
・ハラスメント行為に対する対応方針の院内掲示
・スタッフ相談窓口の明確化
これにより、院長が状況を把握しやすくなり、スタッフからも「守られている感覚が強くなった」という声が上がった。
【コミュニケーション負荷の平準化と組織的運用】
(1)受付・診療補助での役割明確化
「どこまで答えるべきか」が曖昧なまま対応すると、不要な押し問答が発生する。
・受付が回答する範囲
・看護師が説明する範囲
・医師が必ず伝える範囲
これらを整理することで業務負荷は大幅に平準化される。
(2)待ち時間ストレスの可視化と削減
高齢男性患者は「待てない」傾向が強く、スタッフへの圧力の原因となる。
・待ち時間目安の掲示
・番号呼び出しの見える化
・診療前の事前説明を簡略化して効率化
設備投資よりも、動線改善やアナウンスの工夫など、運用面の調整で大幅に改善する例も多い。
(3)コミュニケーション困難患者の共有と情報連携
医師・看護師・受付が「情報を共有できていない」ことで無駄な火種が生まれるケースは非常に多い。
・対応履歴の簡易記録
・院内チャットでの注意ポイント共有
・新人への引き継ぎ事項の整備
情報連携ができているクリニックほどスタッフの負担は軽く、離職率も低い。
【社労士として見てきた成功事例】
複数の泌尿器科クリニックを支援してきた中で、コミュニケーションストレス対策が上手く機能している組織には共通点がある。
・説明をスタッフ任せにしない「仕組み化」
・苦情が続く患者には早期に管理者が介入する文化
・対応履歴の記録習慣
・シニアスタッフや男性スタッフの効果的な配置
・研修とエスカレーションルールの整備
スタッフの心理的負担を減らすことは、結果的に医療の質向上につながる。泌尿器科が抱えるコミュニケーション特有の難しさに向き合い、組織として保護・予防策を講じることが、持続的な職場づくりには欠かせない。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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