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形成外科では、術前・術後の比較を目的とした写真撮影が日常的に行われます。医療品質向上に欠かせない工程である一方、写真データは「患者の身体的特徴」を含み、極めて高い秘匿性を持つ情報です。診療録同等の扱いを求められるため、管理体制が不十分な医療機関では情報漏えいリスクが顕在化しやすく、労務管理の観点でも重大な責任問題につながります。社労士として医療機関の相談を受ける中でも、撮影データの取り扱いを巡るトラブルは増加傾向にあり、就業規則や現場ルールの構築が追いついていないケースが目立ちます。
以下では、形成外科に特有のリスクと実務上の対応策を整理し、職務分担・教育・管理体制の要点を解説します。
【撮影工程の属人化が招くリスク】
多くの形成外科では、撮影を看護師または医療助手が担当しますが、撮影環境や手順に一定のバラつきが生じがちです。属人化の典型例として、個人スマートフォンの使用、USBメモリでの移動保存、共有フォルダのパスワード未設定などが挙げられます。いずれも外部流出の入口となり、人為的ミスを誘発します。
特に個人端末の使用は、情報セキュリティの観点から最も避けるべき運用です。院内で撮影ルールが明文化されていない場合、スタッフが利便性を優先し、結果的に重大インシデントにつながることがあります。実際、私が相談を受けた事例でも「院長から口頭で許可された」と各自が判断していたケースがあり、管理者側が想定していない運用が放置されていました。
【保存先・管理権限の不明瞭さ】
写真データの保存場所が明確でないことも情報漏えいリスクを高めます。フォルダ構造が複雑でアクセス権限が適切に設定されていない場合、必要のないスタッフでも閲覧可能となり、ヒューマンエラーの温床となります。
形成外科では美容医療の性質上、顔写真など特にセンシティブな情報を扱うため、保存環境の設計が重要です。多職種が関わる場面では役割ごとにアクセス権限を制限することが必須であり、管理者不在の状態は避けなければなりません。
【クラウド利用に伴うガバナンス不全】
昨今ではクラウド管理を導入する医療機関が増えていますが、クラウドの管理ポリシーを理解しないまま利用すると逆にリスクが高まります。特に、自動同期設定のままスタッフ私物端末にデータが保存されるケースや、外部共有リンクを誤って送信してしまうケースは、労務管理上も重大な問題です。
情報漏えいが発生した際は、管理体制の不備が安全配慮義務違反と評価される可能性もあり、責任は個人ではなく事業者に及びます。
【具体的なルール設計のポイント】
第一に、撮影データの取り扱いフローを文書化することが重要です。撮影から保存、加工、医師確認、保管、削除までの工程を時系列で整理し、誰がどの段階を担当するのかを明確にします。形成外科では、術後経過確認が長期に及ぶこともあり、保存期間や削除基準についても明文化する必要があります。
第二に、院内使用端末の限定運用です。個人端末使用の禁止は必須であり、必要であれば院内専用の撮影端末を導入し、ログ管理・パスワード管理・自動ロック設定を徹底します。
第三に、スタッフ教育の体系化です。一度の説明では定着しません。情報管理は医療安全教育の一部として位置づけ、年1回程度の研修を実施することで意識付けが可能です。特に新入職員に対しては、撮影・保存・閲覧の禁止事項を具体例と併せて示すことで、現場の統一運用につながります。
社労士の立場から強調したいのは、情報管理は「スタッフの不注意」だけを問題視するのではなく、「組織として再発防止可能な体制を整える」という点です。適切なルール整備と権限設定を行うことで、スタッフの心理的負担も軽減され、安心して業務に従事できる環境が生まれます。
【トラブル発生時の対応体制構築】
万が一、誤送信やデータ流出が発生した場合、初動対応の遅れは外部評価を大きく左右します。医療機関としては、発生時の対応フロー、報告窓口、患者への説明手順を事前に定めておくことが重要です。
また、就業規則内に情報管理義務違反の扱いを明確に位置づけることで、故意・重過失の行動に対する懲戒判断の基準が整備されます。これも労務リスクの低減に有効です。
【形成外科特有の視点】
形成外科は、審美性の改善や再建手術の比較写真が他科より多く、同意取得も複雑になりがちです。写真データの取り扱いルールを整備するだけでなく、撮影時の説明文言、同意書フォーマット、患者からの問い合わせ対応マニュアルまで、周辺領域の整備が情報漏えいリスクを大きく抑えます。
実際の相談事例では、撮影同意の範囲が曖昧で患者とスタッフの認識のズレが生じ、クレームに発展したケースもあります。情報漏えいを防ぐ以前に、撮影に関する法的・倫理的な説明体制を整えることが極めて重要です。
【まとめ】
撮影データの管理は、形成外科における医療の質と信頼性を左右する重要課題です。単なるIT管理の問題ではなく、職務分担・教育・内部統制を含む総合的な労務管理のテーマとして捉えることが必要です。院内のルール整備と運用の徹底により、情報漏えいリスクは大幅に低減できます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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